山内宏泰 公式サイト
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「みかんのヤマ」 12 一家の転落 20211231
みかん山の中腹、陽当たり抜群のうちの畠は、あっさり農会長に明け渡された。
これで崩れた風防の石積みも、事故の起きたトロッコも一新されるんだろう。
母には新たに仕事があてがわれた。ふもとのみかんセンター。山のみかんはすべてここに集まり、出荷されていく。むろん施設ごと農会長の息がかかっている。
水の温み出したこの時節、繁忙期はとうに過ぎ去り閑散としている。仕事といえば細々と加工品を作るくらいで
「みかんのヤマ」 11 母の決断 20211230
母はあの日以来、呆然としたっきりだ。
もともと他所の人と屈託なく交われるタチじゃなく、父の横でにこにこ佇みやり過ごすのが常だった。ガードを喪ったいま、自分が前へ出ようとの決意は特にない。すべてに背を向け家でじっと丸まる母の瞳は、何も映さず虚ろだった。
わたしはといえば、自分の性向がまるで母似だったと痛感するばかり。忌引きが明けて学校へポツポツ通い出すも、口実を見つけては休むようになった。
「みかんのヤマ」 10ふたりぎりの葬送 20211229
はい。わがままは言いません。
山のみなさんはどうか宅のこと気にせず、お仕事を続けてくださいますよう。
農会長のお力で、お達しを出していただけますか。
ただし身内だけは。線香を立ててこの人を送るお許し、くださいますれば。
わたしが安置所へ駆けつけてから、初めて聴いた母の声はこれだった。
農会長は、眼を見開き唇を半開きにしながら、山をあげての葬送は不要という母の言葉に聴き入った。
お気
「みかんのヤマ」 9「山の王」の威厳 20211228
農会長が言わんとするのは、いまが収穫と出荷のピークであること。
どの畠も人員総出で、たわわに実ったみかんをもいで、ケースにぎっしりと詰め、傷ものにならぬよう丁重に出荷場まで運び出す、一連の作業の真っ最中だ。
みかん山でとれるみかんは、希少なブランド種として流通する。外皮も内皮も極めて薄く、口に含めば糖度の高い果実が躍り出る。甘みと食べやすさで並ぶものなし。それだけに食べ頃は短く、扱いも慎重
「みかんのヤマ」 8グレーの背広の農会長 20211227
甲斐甲斐しく父の手伝いに精を出すのが常だった母は、奉ずる先を急に失って身動きすらできなくなっている。到着したわたしを一瞥するも、とくに何を言うのでもない。そのまま涙を垂れ流し立ち尽くすだけ。
見かねた温子さんが、安置所の室の壁際にあるシートをすすめ、手を添え導いて母を座らせた。
と、遺体前のスペースが空くタイミングを見計らっていたごとく、山の人たちがどっと病院へ駆けつけた。
畠を接する