文学の肖像 倉数茂『名もなき王国』より なぜ人は物語に憑かれるの
これは物語という病に憑かれた人間たちの物語
ひとつの大きな物語の中に、いくつもの小さい物語が織り込まれて異彩を放つ小説が、倉数茂の『名もなき王国』。物語ることと生きることの関係について、じっくり考えた作品だ。
主人公は、過去にみっつの作品を発表するも、いまだ無名の小説家。あるとき出会った澤田瞬なる人物と交流するうち、澤田の伯母が幻想小説家・沢渡晶だったと判明する。瞬の半生と伯母の思い出、それに沢渡晶の作品が入り混じり語られ、一冊が構成されていく。
時空を行き交い、いく