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月夜千冊 四夜『詩学』 アリストテレス
アリストテレスが指す「詩」とはおもに悲劇のことだけれど、いまでいえば詩や小説をはじめ文学全般がその範疇に入ると考えてよさそう。
ギリシア悲劇の全体を支配しているのはいつも、神や運命といった大いなる力で、そのあたりが前面に出てくると「ああ、遠い古代の話だよね」、ちょっと距離を感じたりする。
ただ、アリストテレスの場合は悲劇を分析していく際に、神や運命をあまり持ち出さなくて、
「悲劇とは、
月夜千冊 3夜『北園克衛詩集』
徹底的なものだけが、徹底的に美しい。
と、ある小説家が言っていたけれど、まったくそのとおりだとおもう。
もしも文学を知的に攻めると決めたなら、
北園克衛くらいに徹底しないといけない。
戦前から戦後にかけて活動した北園克衛は、「前衛詩人」といった呼ばれ方をする。
北園が詩作を始めた一九二〇年代、海の向こうではアンドレ・ブルトンらを中心にシュルレアリスムという考えが巻き起こっていた。本人に聞
月夜千冊 2. 『時間』吉田健一
うねうねと続き、始まりも終わりもないような文章が吉田健一の特長で、そこが最大の味わいどころでもあるし、ときに、とっつきにくさのいちばんの原因にもなる。晩年の代表的著作の一つと目される『時間』でも、もちろんその持ち味は健在というか、吉田的文体の集大成がここにあるといってもいいくらい。本作の場合は、扱っているテーマがちょうど時間という得体の知れないものでもあり、結論めいたものをすぱりと提示できるなん
もっとみる月夜千冊 1. 『よあけ』
山の奥の湖のほとりで、夜が明ける。
タイトルのとおり、ただそれだけのことが描かれる。
絵本だからもちろん、絵と、すこしの文章でできている。
絵本にしろ漫画でも、絵と文がうまくなじんでいることって、なかなかない。
たいていは絵か文、どちらかが主導権を握って、作品を引っぱっている。
『よあけ』はその点、みごとなバランス。絵と文がいずれも独立した表現としてありながら、溶けあい、引き立てあってい