山内宏泰 公式サイト

ライター。アート、写真、文学、教育、伝記など。 著書に「上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史」など。 好物はマドレーヌ、おにまんじゅう。 【Twitter】@reading_photo   info@yamauchihiroyasu.jp

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    月夜千冊 第七夜          『ファーストアルバム』川島小鳥

     現実の暮らしを営んでいくには、できるだけ現実的であるほうが何かと有利でやりやすい。自分の内側に大きな世界を築いている夢見がちな人にとって、この世はなかなか住み…

    月夜千冊 第六夜『きことわ』朝吹真理子

     ふたりの少女が葉山で出会い、夏の時間を過ごす。永遠子と貴子は年齢こそ違えどよく通じ合い、他の者がとうてい入り込めない世界をふたりで築いている。  ふたりだけの…

    月夜千冊  第五夜         『天の歌  小説 都はるみ』 中上健次

     最近でこそさほどその名をさほど耳にしないものの、かつて彼女はまぎれもない天才として名を馳せて、昭和の演歌文化を支える大立者として君臨した。芸名を都はるみという…

    月夜千冊  四夜『詩学』 アリストテレス

     アリストテレスが指す「詩」とはおもに悲劇のことだけれど、いまでいえば詩や小説をはじめ文学全般がその範疇に入ると考えてよさそう。  ギリシア悲劇の全体を支配して…

    月夜千冊   3夜『北園克衛詩集』

    徹底的なものだけが、徹底的に美しい。 と、ある小説家が言っていたけれど、まったくそのとおりだとおもう。 もしも文学を知的に攻めると決めたなら、 北園克衛くらいに…

    月夜千冊   2. 『時間』吉田健一

     うねうねと続き、始まりも終わりもないような文章が吉田健一の特長で、そこが最大の味わいどころでもあるし、ときに、とっつきにくさのいちばんの原因にもなる。晩年の代…

    月夜千冊 第七夜          『ファーストアルバム』川島小鳥

    月夜千冊 第七夜          『ファーストアルバム』川島小鳥

     現実の暮らしを営んでいくには、できるだけ現実的であるほうが何かと有利でやりやすい。自分の内側に大きな世界を築いている夢見がちな人にとって、この世はなかなか住みにくい。

     川島小鳥は、明らかに夢見がちな人。写真家としてたしかな仕事を幅広く手がけているとはいえ、本人の周りにはいつも、ふわふわとした空気が漂っている。高い声で話す内容はときに突拍子もなく、問われたこととかみ合っていなかったりすることも

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    月夜千冊 第六夜『きことわ』朝吹真理子

    月夜千冊 第六夜『きことわ』朝吹真理子

     ふたりの少女が葉山で出会い、夏の時間を過ごす。永遠子と貴子は年齢こそ違えどよく通じ合い、他の者がとうてい入り込めない世界をふたりで築いている。

     ふたりだけの世界が確固としてそこにあると感じさせるのは、彼女たちの言動というよりも、叙述のしかたによる。ふたりが特別なことをしたり言ったりするのではなく、濃密な関係が理屈で説明されるのでもなく、ただただ五感に訴えかける描写を積み重ねることで世界を構築

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    月夜千冊  第五夜         『天の歌  小説 都はるみ』 中上健次

    月夜千冊  第五夜         『天の歌  小説 都はるみ』 中上健次

     最近でこそさほどその名をさほど耳にしないものの、かつて彼女はまぎれもない天才として名を馳せて、昭和の演歌文化を支える大立者として君臨した。芸名を都はるみという。 

     都はるみの半生が、ひとりの作家によって小説として書かれている。彼女の幼少時代を、デビューのきっかけとなったコンテストの様子を、デビュー後すぐにヒット作を出し躍進していくさまを、思うところあってみずから引退を決めラストコンサートに臨

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    月夜千冊  四夜『詩学』
アリストテレス

    月夜千冊  四夜『詩学』 アリストテレス

     アリストテレスが指す「詩」とはおもに悲劇のことだけれど、いまでいえば詩や小説をはじめ文学全般がその範疇に入ると考えてよさそう。

     ギリシア悲劇の全体を支配しているのはいつも、神や運命といった大いなる力で、そのあたりが前面に出てくると「ああ、遠い古代の話だよね」、ちょっと距離を感じたりする。

     ただ、アリストテレスの場合は悲劇を分析していく際に、神や運命をあまり持ち出さなくて、

    「悲劇とは、

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    月夜千冊   3夜『北園克衛詩集』

    月夜千冊   3夜『北園克衛詩集』

    徹底的なものだけが、徹底的に美しい。

    と、ある小説家が言っていたけれど、まったくそのとおりだとおもう。

    もしも文学を知的に攻めると決めたなら、

    北園克衛くらいに徹底しないといけない。

    戦前から戦後にかけて活動した北園克衛は、「前衛詩人」といった呼ばれ方をする。

    北園が詩作を始めた一九二〇年代、海の向こうではアンドレ・ブルトンらを中心にシュルレアリスムという考えが巻き起こっていた。本人に聞

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    月夜千冊   2. 『時間』吉田健一

    月夜千冊   2. 『時間』吉田健一

     うねうねと続き、始まりも終わりもないような文章が吉田健一の特長で、そこが最大の味わいどころでもあるし、ときに、とっつきにくさのいちばんの原因にもなる。晩年の代表的著作の一つと目される『時間』でも、もちろんその持ち味は健在というか、吉田的文体の集大成がここにあるといってもいいくらい。本作の場合は、扱っているテーマがちょうど時間という得体の知れないものでもあり、結論めいたものをすぱりと提示できるなん

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