山内宏泰 公式サイト

ライター。アート、写真、文学、教育、伝記など。 著書に「上野に行って2時間で学びなおす…

山内宏泰 公式サイト

ライター。アート、写真、文学、教育、伝記など。 著書に「上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史」など。 好物はマドレーヌ、おにまんじゅう。 【Twitter】@reading_photo   info@yamauchihiroyasu.jp

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ことばスケッチ 4 「境界線」

メイアイカムイン? 交代でピッチに入るときはいつも、誰にも聞こえないボリュームでそうつぶやいてから、タッチラインをまたぐことにしている。 すると右足がピッチの芝に…

言葉でスケッチ レッスン3 「威圧」

 髪を五分刈りにした男が、赤茶けたビッグサイズのロングTシャツ姿で、ドアからヌッと現れた。  目がパチクリしているのに、口元は八の字に固く結んでいる。  日々刺激…

【掲載中】週刊文春  桑田佳祐連載「ポップス歌手の耐えられない軽さ」第45回

坂本冬美さんとのコラボを成した桑田さんですが、 はた、と思います。 たとえば松田聖子さんに楽曲を頼まれることはついぞなかったな、と。 なぜだったのでしょう? ぜひ…

【掲載中】 文春オンライン アート・ジャーナル 中野京子さんに聞いた、絵を「読み解く」方法

「運命や宿命に強く惹きつけられるのは人の常。だからこそ芸術における普遍的テーマとなってきた」 絵は読み解くもの。そうだよなあ。中野京子さんにあれこれ教えていただ…

レッスン2 「エクレア」

 駅前の菓子屋の窓ガラスの向こう、イートインコーナーに妻が座っていた。  彼女がひとりでものを食べている姿を見るのは、初めてだった。  両手でエクレアを捧げ持って…

スケッチ1 「レッスン」

「レッスン」 壁にぐるり据え付けられたバーに縋り付くように、等間隔で生徒たちは散らばっていた。 がらんとした室の中央に、ひとり先生が佇んでいる。身体にぴたりな黒…

ことばスケッチ 4 「境界線」

ことばスケッチ 4 「境界線」

メイアイカムイン?
交代でピッチに入るときはいつも、誰にも聞こえないボリュームでそうつぶやいてから、タッチラインをまたぐことにしている。
すると右足がピッチの芝に触れる直前、およそ五分五分の割合で、
「どうぞ」
と、どこからか返事が聴こえるんだ。
そのひと声はいつも、たしかな後押しになってくれる。
ピッチに立ってプレーすることを、許されて僕はそこに在ると感じられるから、怖いものなんて何もなくなる。

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言葉でスケッチ レッスン3 「威圧」

言葉でスケッチ レッスン3 「威圧」

 髪を五分刈りにした男が、赤茶けたビッグサイズのロングTシャツ姿で、ドアからヌッと現れた。
 目がパチクリしているのに、口元は八の字に固く結んでいる。
 日々刺激を入れて鍛えたんだろう胸元の位置が高い。
 上背があるうえに重心が高いので、こちらが相手を見上げるかたちになる。
 男がズイと一歩、前に出た。自分の腰が思わず落ちてしまい、いっそう五分刈りが遠く、高くなる。

【掲載中】週刊文春  桑田佳祐連載「ポップス歌手の耐えられない軽さ」第45回

【掲載中】週刊文春  桑田佳祐連載「ポップス歌手の耐えられない軽さ」第45回

坂本冬美さんとのコラボを成した桑田さんですが、
はた、と思います。
たとえば松田聖子さんに楽曲を頼まれることはついぞなかったな、と。
なぜだったのでしょう? ぜひご一読のほど。

桑田佳祐さん連載「ポップス歌手の耐えられない軽さ」第45回、発売中の週刊文春で。
#桑田佳祐

【掲載中】  文春オンライン アート・ジャーナル 中野京子さんに聞いた、絵を「読み解く」方法

【掲載中】 文春オンライン アート・ジャーナル 中野京子さんに聞いた、絵を「読み解く」方法

「運命や宿命に強く惹きつけられるのは人の常。だからこそ芸術における普遍的テーマとなってきた」
絵は読み解くもの。そうだよなあ。中野京子さんにあれこれ教えていただいてますよ。
文春オンラインで!

マラーが“運命”を招き入れ、死が訪れた 中野京子さんに聞いた、絵を「読み解く」方法
アート・ジャーナル #運命の絵 #西洋絵画 #アート #文春オンライン https://bunshun.jp/artic

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レッスン2 「エクレア」

 駅前の菓子屋の窓ガラスの向こう、イートインコーナーに妻が座っていた。
 彼女がひとりでものを食べている姿を見るのは、初めてだった。
 両手でエクレアを捧げ持って、それをこまめに口元へと運んでいる。
 彼女の両眼は片時もエクレアから離れない。こちらに気づく様子はまったくない。
 真剣なまなざしを湛えた顔面が、咀嚼のせいで上下に揺れるあいだ、彼女の瞳の色はさっと明るみを増す。
 いったん揺れが収まる

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スケッチ1 「レッスン」

「レッスン」

壁にぐるり据え付けられたバーに縋り付くように、等間隔で生徒たちは散らばっていた。
がらんとした室の中央に、ひとり先生が佇んでいる。身体にぴたりな黒いシャツとパンツに身を包み、反らせた胸の前で腕を組む。
引っ詰めた髪の下で丸出しの額にうっすら皺を寄せ、彼女は短い言葉をふたつ、みっつ。続けざま口にした。
窪んだ眼窩の奥から発する眼差しは、右手を斜め前方に、左脚は斜め後方へと懸命に伸ばそ

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