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読み書きのレッスン

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寄せては返す波のように、読むこと書くことを日々学ぶのです。
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#セールスマンの死

「セールスマンの死」17   20211015

 そうだった。ここで暮らしていたころは他に交通手段などないから、マイカーであの角を右に折…

「セールスマンの死」16   20211014

 思えば不機嫌さが骨の髄にまで染み付いているような父だった。とはいえさすがに、日々ずっと…

「セールスマンの死」15   20211013

 お手間を取らせました、どうぞ進んでください。  運転手に礼を言うと、霊柩車はまた音もな…

「セールスマンの死」14   20211012

 ひとけのない住宅街の道を、霊柩車はゆっくりと進んでいった。  火葬場へ行くには、実家の…

「セールスマンの死」13   20211011

 父の髪やら頬やらを撫で回して止まない母の姿を、私は正視できなかった。両親のスキンシップ…

「セールスマンの死」12   20211010

 セレモニーホールまで歩くのに、結局三十分ほどもかかった。遅刻だ。  私が着いたときには…

「セールスマンの死」11   20211009

 私の乗る新幹線が名古屋駅のホームに滑り込んだ。新鮮な空気が吸えるかと乗降ドアをくぐると、温気を含んだ鰹出汁の匂いがいきなり鼻をついた。ちょうどドアの真正面で立ち食いのきしめん店がやっていて、これでもかというほど辺りに香りを放散しているのだ。  愛知県人は日頃からきしめんを食べるのかといえばそれほどでもなく、ふるさとの味という認識もほとんどないのに、舌の両脇の奥のほうがじんわり痛くなって唾液が溢れた。  なるほどこういう生理反応として、素直に涙も出ればごく自然に受け止めら

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「セールスマンの死」10   20211008

「すぐ疲れるでいかんわ最近は。まったく……」  と言い残して、父は便所を使ってそそくさと…

「セールスマンの死」9   20211007

 いまの若い連中はみんな、あんなもんなのか? まあウチにもひとりおろうが。何を考えとるか…

「セールスマンの死」8   20211006

 四畳半の部屋の襖をほんのすこし開けて、私は帰宅した父の様子に聞き耳を立てた。嫌悪するも…

「セールスマンの死」7   20211005

 父の小物っぷりは私の小さいころから、日々いかんなく発揮されていた。子どもなど何もわから…

「セールスマンの死」6   20211004

 新幹線は飛ぶように走り、あと数分で名古屋へ着くと車内放送が報せた。死んでしまったあとと…

「セールスマンの死」5   20211003

 車窓の桟に肘をのせ頬杖を突いて、私は冴えない景色を眺めていた。曇天に稜線が溶け込んで朧…

「セールスマンの死」4   20211002

 父の死相と対面した記憶をたぐっているあいだも、総武快速線は規則正しく揺れて私を運んだ。いつしか車内は空き、アナウンスが終点到着を告げた。そうだ、さっきの着信の確認をしないと。  ホームに降り立ち、ベンチに腰掛けスマホを開く。やはり母親からだった。留守電にメッセージが入っている。 「あぁ……、出ない! いないの、ちょっ!」  とだけ聞き取れた。明らかに息をうまく吸えていない妙な発声と、発狂したてを思わせる取り乱し方から、何が起きたかすぐ察せられた。  口調が不快で、スマホ

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