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【演ずるひと】長江崚行 ろくに趣味もない。俳優として、走れるうちは走り続けたいから。

役者とは、かなり特異な人たちなんじゃないか。
自分じゃない人になりきって、しばしの時を過ごすって、どういう感覚なんだろう。うまく想像できない。何だかすごく怖いことのような気すらしてくる。

演ずることに憑かれた人たちの頭を渦巻く、悩みと喜びとはどんなものなのか。
たとえば、長江崚行の場合はどうか。
(初出・cakes2021年)

「実力派」とは、まさに彼のことだ。
コメディーからシリアスまでをみごとに演じ分ける俳優との世評を、若くして確固たるものとする。
 芸能活動を始めたのは2007年で、9歳のときのこと。2009年から4年間、NHK「天才てれびくんMAX / 大! 天才てれびくん」にレギュラー出演し広く顔を知られた。
17歳でミュージカル「ヘタリア」に主演。その後も舞台「Messiah メサイア 」シリーズや「文豪ストレイドッグス」シリーズ、朗読劇にボイスドラマなど、息つく暇もなく出演が続く。
聞けば年間300日以上は舞台に上がっているか、稽古場に詰めているかの生活である。
しかしもともと、何もしない時間には耐えられないタチで、休みがないくらいのほうが助かるのだという。
 出演作予定はかなり先まで決まっているので、準備も早めに始める。「次の次」にあたる作品が時代劇なら、衣装で足袋を履く可能性が高いから、もう足袋を履いて歩く練習しておこう、などと。
それくらいしないと不安で落ち着かない。仕事のうえでのライバルたちだってきっと前に進んでいるはずだから、負けないようにできることは何でもしておきたいとおもう。そんなだから、ろくに趣味もないままだ。

そこまでする報いは何か。公演を終えたあとのカーテンコールで拍手をもらえると、ああ報われたという気分にはなる。稽古の時間は楽しいばかりではなく、基本的に「できないことをできるようにする作業」なので、もがいたり苦しんだりすることもたくさんある。そうした苦労の甲斐があったと思えるのは、お客さんの反応に触れたときしかあり得ない。


違うことをやっている自分を、想像してしまったりもする

若き背中に漂う、「演じる人」としてのプロフェッショナリズム。この強い自覚はいつから芽生えたのか。だろう。小学生のころから『天才てれびくんMAX / 大! 天才てれびくん』に出演したりして露出が多かったので、自然とそのあたりの自覚はできていった。
俳優とは違う道に進みたくなったりしたことは、たくさんある。中学校を卒業するころは教師になりたいと考え、高校は進学校に入ろうとして勉強もがんばった。
中学3年生のときに受けたオーディションで、最終選考段階まで残ったのに最後は落ちてしまった。それがものすごく悔しくて、気持ちを噛み締めていたら、まだもっと芸能の道でやりたいという気持ちが自分の中に湧き上がった。
卒業直前に、正直な気持ちを親に打ち明けた。進学校の受験を取りやめ、芸能科のある高校へ進学した。
そんな経緯もあって、いっそう俳優の仕事に打ち込むようになり、東京で舞台の稽古に出てテストの日だけ大阪に帰り、終わったら新幹線でまた東京に戻って、といった生活をするようになる。

早い時期から仕事のスタイルを確立し、若くしてキャリアは充分という立場になった。役者として多少の希望や要望は通りそうなものだが、「こういう役柄を演じたい」といった気持ちは、ほぼない。
あくまでも、俳優は役をいただく立場である、というスタンスだ。キャスティングを考える人間が「長江はこういう役が合うんじゃないか」とあつらえてくれれば、それに全力で応える。
役づくりはまだまだ試行錯誤だ。毎回時間をかけて取り組むしかない。
役づくりの方法には、人物の感情をつぶさに想像して内面から人物像を築いていくやり方と、その人がどういう服を着て何を食べてどんなしゃべりかたをするか……と外側から固めていくやり方がある。長江スタイルとしては、外側からつくっていくことが得意だ。
だから役柄に関連することは、詳細に調べる。時代物なら、その時代の建物を調べたり見に行く。建物のなかに身を置いていると、言葉にしづらい気配みたいなものがきっと感じ取れるという。
 

俳優・長江崚行を自分で演じているような感じ

自分の姿を人に晒し続ける役者とは、なかなかストレスフルな仕事ではないかと想像するが、長江崚行としてはプレッシャーをそれほど感じたことがない。
演じているときの自分のことを、本人はどこか育成ゲームのキャラクターみたいに眺めているのだとか。自分がゲームをしながら、芸能人・長江崚行というキャラを鍛えたり育てたりしているような感覚だ。
それなら、いくら人の目に晒されても、自分の本体じゃないから平気でいられる。俳優を続けていくうえで知らず編み出した、本人なりの方法論なのかもしれない。
演じることはまだまだ続けていきたいが、いずれはプロデュースの仕事をしてみたいとの思いもある。自分の経験を伝えたりしながら、若い才能が成長する場をつくり、見守ることもできたらいいと考えている。
が、それはおそらくずっと先の話。当面は、「俯瞰の目」を持つ稀有な俳優の姿に、これからもたくさんの作品のなかで出逢えそうだ。

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