月夜千冊 第八夜 『時間』 吉田健一
うねうねと続き、始まりも終わりもないような文章が吉田健一の特長で、そこが最大の味わいどころでもあるし、ときに、とっつきにくさのいちばんの原因にもなる。晩年の代表的著作の一つと目される『時間』でも、もちろんその持ち味は健在というか、吉田的文体の集大成がここにあるといってもいいくらい。本作の場合は、扱っているテーマがちょうど時間という得体の知れないものでもあり、結論めいたものをすぱりと提示できるなんてことは、いくら時代を代表する文士だった吉田をもってしてもやっぱり難しく、時間の正