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月夜千冊

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あと何冊読めるだろう。 ふとそう思いました。 だから、 本を読もう。 もっと本を読もう。
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#本

第三十一夜 『神様の友達の友達の友達はぼく』最果タヒ 〜月夜千冊〜

 最果タヒはほんとうになんでも書ける。ジャンルを無化する。この本に載っているのは便宜上エ…

「なつのひかり」 江國香織

 江國香織の書くものは、いつも欲望のかたまりとしてある。  自分の欲望で、作品のすべてを…

第二十九夜 「キュー植物園」ヴァージニア・ウルフ 〜月夜千冊〜

 ロンドン南西部、テムズ川沿いに広がるキュー王立植物園といえば、18世紀から歴史を刻む世界…

第二十八夜 「楽しい終末」 池澤夏樹 〜月夜千冊〜

「人間が人間らしく生きて幸福な日々を送ることは全体としての自然、全体としての宇宙の存在意…

第二十七夜 「テレーズ・デスケルウ」 モーリアック

 偏りを承知で言ってしまえば、フランス文学といえば恋愛ものだ。フランスでは小説が書かれる…

第二十六夜 「空が分裂する」最果タヒ

「ことばつかい」に興味津々だ。  目上の人に対するときは気をつけるべし、といった「ことば…

第二十五夜 「陰気な愉しみ」安岡章太郎

 なるほどこういうのが、書き手本人の心境を細かく描く「私小説」の典型なのだなあ。  月に一度「私」は、横浜の役所に年金をもらいに行く。戦争で負傷したことからおりる金なのだけど、その日が近づくとやけにそわそわしてしまう。いざ出かけても、役所の担当者の一挙一動にびくついてしまう。そうして、 「私は、こんなにまでして金が欲しいのだろうか。」  との自己嫌悪に苛まれるのだ。  ただ、そこには嗜虐的な喜びがあることにも、「私」は自分で気づいている。  自分の中に卑屈な感情を見つけ

第二十四夜 「雪」中谷宇吉郎

雪の結晶は、天から送られた手紙である  科学の研究ってなんだろう? なんで、どうやって、…

第23夜 「私という現象」 三浦雅士

 編集者として、また文筆家として広く活躍してきた人物の、最初の著作がこれだった。  書か…

第二十一夜 『谷川俊太郎詩集』

「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」 と言ったのは田村隆一だけど、 きっと谷川俊太郎も、同…

第十六夜 『ケンブリッジ・クインテット』  ジョン・L・キャスティ

 1949年のこと。ケンブリッジ大学クライスト・コレッジでディナーが開かれた。主宰は英国きっ…

第十二夜 『日本の思想』 丸山眞男

 戦後を代表する政治学者の丸山眞男が、新書のかたちでコンパクトに考えをまとめた一冊。タイ…

第九夜 『ニュー・アトランティス』ベーコン

「わが学院の目的は諸原因と万物の隠れたる動きに関する知識を探り、人間の君臨する領域を広げ…

月夜千冊 第八夜 『時間』  吉田健一

うねうねと続き、始まりも終わりもないような文章が吉田健一の特長で、そこが最大の味わいどころでもあるし、ときに、とっつきにくさのいちばんの原因にもなる。晩年の代表的著作の一つと目される『時間』でも、もちろんその持ち味は健在というか、吉田的文体の集大成がここにあるといってもいいくらい。本作の場合は、扱っているテーマがちょうど時間という得体の知れないものでもあり、結論めいたものをすぱりと提示できるなんてことは、いくら時代を代表する文士だった吉田をもってしてもやっぱり難しく、時間の正