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第十二夜 『日本の思想』 丸山眞男


 戦後を代表する政治学者の丸山眞男が、新書のかたちでコンパクトに考えをまとめた一冊。タイトルの通り、日本の思想の特徴や問題点を、明快に浮き彫りにしていく。

 収載順に章の内容を見てみれば、まずは書名にもとられている「日本の思想」。日本では、はっきりと辿れるようなかたちで思想の歴史が形成されてこなかったことを、丸山はズバリ指摘する。日本人はものの捉え方・考え方がことごとく無構造なのだという。

 たしかに「もののあはれ」だとか、儒教に基づく倫理観は時代を超えて受け継がれてきたけれど、それらを自覚的に位置づけたりはしない。すでにそこにあるもの、としてただ追認するのだ。

 そう、どんな思想も日本人は、たいした自覚もなく受け入れてしまう。それで思想は極端に雑居性を帯びる。敗戦という大きな出来事も状況を変えるには至らず。戦後はますます、日本人の思想が雑然とするばかりである。丸山はそう歴史と現状を分析していく。

 続く「近代日本の思想と文学」の章では、もともと政治との関わりの薄かった日本の文学が、政治性を帯びたプロレタリア文学の登場で揺り動かされたさまを描く。

「思想のあり方について」は、文化の型を外に開いた「ササラ型」と、孤立に走る「タコツボ型」に分類。現代の学問はどんどんタコツボ型に傾いていると指摘する。

 最後の章は、語り口調で展開される「『である』ことと『する』こと」。既存の地位にふんぞり返る「である」状態に安住していてはいけない。これからは、主体的に動く「する」状態を保つべしとの主張だ。

 民主主義国家の国民なら当然有していると思ってしまう「自由」についても、安穏としていてはいけないと説く。国民は主権者であり自由を持っているが、主権者であることに安住して権利行使を怠っていると、いつのまにか主権者ではなくなっている事態だって、歴史上は幾度も繰り返されてきたのだ。

 決して厚い本ではないのに、この読み応えはどうだろう。どんなときも、ものごとの原点に立ち返って考えることこそ大切。個別の知識はもとより、丸山眞男が強調したかったのはそこじゃないかという気がする。

日本の思想

丸山眞男

岩波新書

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