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「みかんのヤマ」 14 持ち帰るポテトサラダ 20220102

 心を閉ざしたまま時間割をただこなす、長く退屈な学校の時間を終えてわたしが帰宅したときもまだ、母は戻っていなかった。

 玄関のドアが再び開いたのは、昨晩のように真夜中だった。風呂場へ直行しそのまま長く籠もるのはきのうと変わらぬパターン。けれど部屋を横切るときに漂わせていた匂いは変化している。
 酒やたばこにヘンな香料が混じるのは同じなのだけど、それら一つひとつの銘柄が別のものだと感じられた。つまりは居る場所や人が、違うみたいだ。
 ただ、通り過ぎる母の横顔に浮かんでいたあきらめと疲れの色は、きょうもきのうも同じ。父がいなくなった日から消え去ったことがないし、これからも変わらないんだろうと思わせた。
 
 翌朝の母はいっこうに起きる気配がない。見守る必要などないのに、なんとなくわたしも学校を休んだ。
 お昼ごろに布団から出た母は、しきりにこめかみをこすりながら、ちゃぶ台に肘をついてぐったりしているだけ。
 黙っていればいつまでもただそうしていそうだったので、
「何か食べるもの、あるの?」
 声をかけてみると、母は億劫そうに台所に置いたタッパーを指さした。
「あれ持ってきて。食べよう」
 フタを開けてみれば、入っていたのは大量のポテトサラダだった。ふたり分の皿を出して、作り置いてある麦茶といっしょにちゃぶ台に並べた。
 マヨネーズと香辛料をたっぷり練り混ぜたポテトサラダの味は濃くて、わたしも母も麦茶を何杯も飲んだ。
 食べながら母は新しい働き先について説明した。
 これから毎日、日が暮れる前までには町まで通わないといけない。きょうはポテトサラダだけだったけど、店で余ったものを持って帰れるから、食べものはあまり心配するな、と。

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