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「須田一政写真集 日常の断片」 〜トタン屋根書店で見かけた本〜

 須田一政なら、これもきれいに仕上げてある本です。そう言って店主が出してきてくれたのは、
「須田一政写真集 日常の断片」。


 タイトルの通り、日常写真が徹頭徹尾、並んでいます。
 流れゆく日常を、一瞬でも留め置いてみたい。そんなシンプルで淡い願いが込められた写真ばかりです。目の前のシーンを一瞬留め置けたとしても何がどうなるというわけでもないんだけれど、なんとか留めておけたらと切に願うほどその日常をいとおしく思っていることだけは疑い得ない。そうした気持ちが像を結んでこれらの写真になっています。だからこそ、写っているのは何の変哲もないまさに「日常の断片」なのに、一枚ずつが胸に迫ります。


 日常を撮るというのはアレですね、小さい子が何かしたり発見するたび親を呼び、「みてー、ねえ、これみてー」とせがむのと同じ心境なのでしょうか。
 見てほしい。覚えていてほしい。束の間でもいいから。
 いつもそう思ってしまうのは、生命としてのわたしたちの本能なのではないですかね。何かとてつもなく大きな流れの中にあって、ほんのちょっとだけその大いなる流れに抗って生命の火を灯すわたしたちの、ささやかな願い。


 本書のあとがきで須田一政はこう書いています。
「文学的素養がない私からいうと、人生には言葉化されない、できない、『こと』や『想い』があふれている。だからこそ、写真を撮っているのだろうと思う」
「私が連綿と続けているのは、獲得する術もないものひとつひとつに爪を立てているような行為である」
「日常というあえかな記憶を形に残す作業は、極めて未練なこと」
 とめどない大きな流れにせめてもの爪痕を残そうとしているのがわたしたちの日常であって、写真はその際に使える便利な道具のひとつといったところでしょうか。

「須田一政写真集 日常の断片」青幻舎


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