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「縦スク」というフォーマット考

縦スクとは、ふたつの特長を持つフォーマットである。
すなわち、
「縦位置画面」+「スクロール」という要素を持っている。

それぞれの特長を見てみる。まず縦位置について。
縦位置と横位置の「絵」では収まりのいいモチーフ、演出効果、強調されるものが大きく異なる。
縦位置は断定。横位置は情緒。
縦位置は肖像。横位置は風景。
縦位置は焦点が瞬時に定まる。横位置は焦点が画面中をさまよう。
つまり、
縦位置の表現は、「はやい」。

次にスクロールについて。
スクロールするとは、連続的であるということ。常に動いていく。そして、コマに縛られない。
「洛中洛外図屏風」などを思い浮かべてみれば、錦雲と呼ばれる曇で画面が幾つにも分割されている。一つずつの場面を落ち着いて見られるが、静的な印象となる。
片や「鳥獣人物戯画」のような絵巻物を浮かべれば、あれは延々とスクロールする。描かれたウサギやカエルの姿体の伸びやかさは、コマ割りされた中に収められていたらきっと目減りする。
つまり、
スクロールの表現は「自由」。

縦スクフォーマットは、はやくて自由ということ。
縦スクに搭載するときは、やはり「はやくて自由」なコンテンツが求められることになるのかもしれない。

縦スクの隆盛が時代の流れというのなら、文章表現もその動きを意識せずにはいられない。縦スク的特質を持った小説を考えていかないと、だ。



続いて、水野ジュンイチロ「スタートアップル!!」で縦スクの特徴がどう生かされているか、見てみる。

●「スタートアップル」第8話
・高速道を走る車の描写。上から下へ流れていく。流れに乗って迫力が出る。
・タツキとリンゴのアップが頻出。小津安二郎映画のような演出。
・二回目の「走る車」。下から上へ流れる。少々の違和感。
・「つまり」というセリフだけを置く。一呼吸置けていい。
・「過去にあったことが~未来の可能性が~ここから想像があふれてくるんです」と言いながら、電話が進化していくさまを描く。過去から未来へ、上から下へ時が流れるのがいい。ここがハイライトだと読み取れる。
・横位置のリンゴのアップ。不思議なコマ。
・三回目の「走る車」。下から上へ走るが、こちらは違和感なし。最初に夜景が広がり(リンゴの心象風景?)、スクロールすると車が見えてきて、夜景を目指してひた走る。リンゴの未来暗示。
・「勘違いするな」と大文字で。小説も文字の大きさを自在に変えられたらいいのに。
・月を見るコマ。アングルがおもしろい。


●「スタートアップル」第1話
・導入でシュレッダーにかけられる書類。それだけで迫力があるのは「タテの流れ」を活用しているから。
・タイトル出る。シュレッダーの紙切れ~お金~オフィスビル へと絵が移り変わっていくのがいい。縦スクは時間の経過とスクロールが結びつくと読みやすい。
・ウミルートの説明描写。一気に知識を流し込まれる感じがいい。「説明」をいかにおもしろくするかはエンタメの基本ゆえ。
・シャ、シャ、シャ、と絵を描いているシーン。時間の経過と結びついているから読みやすい。
・「シゴトって何?」の思い出シーン。縁取りを黒にして異時間であることをわからせる演出。細田守も、この世ならぬシーンは人物を赤い輪郭線にしている。
・縦スクは位置関係をあまり気にしなくていいのかもしれない。カメラアングルの向きがけっこうあちこちへ飛ぶが、さほど気にならないのは不思議。



新しいフォーマットが新しい表現を生み出すのは歴史的によくあること。
縦スクには大いに可能性がある。表現の開拓がもっと盛んになっていかないといけないだろう。そうでないと、ケータイ小説のように一過性のブームで終わってしまう恐れもつきまとうゆえ。


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