
トタン屋根書店で、こんな写真集を薦められた 「ドアノーと音楽、パリ」ロベール・ドアノー
暑いさなか、近所にできたトタン屋根書店へ寄ってみた。むろん他に客はいないので、気兼ねなく本の群れに目を通す。大判の写真集の数々に埋もれるようにして、小さい一冊が顔を覗かせていた。
『ドアノーと音楽、パリ』。かわいい表紙と佇まい。
手にとったとたん、何も言わずとも、店主がしたり顔で解説してくれた。
「パリは移動祝祭日だ」
と言ったのはヘミングウエイでしたね。戦前のパリの煌めきをひとことで言い表していることばです。
では戦後のパリの魅力を最もよく伝えたのは?
いくつか意見が出るでしょうが、ロベール・ドアノーの写真はまちがいなくそのひとつ。
1930年ごろから写真を始めた彼は、1994年に没するまでルポルタージュ、スナップ、ファッションまで、あらゆるものをあらゆる形式で撮影します。
ただし、撮影地はほぼパリに限られた。石畳の街路を隈なく歩き回って、人肌の温もりある写真を撮り続けたのです。
この本はドアノー作品の中から、音楽にまつわるものばかりを選って編まれています。流しのアコーデオン弾きや大御所演奏家たちのポートレート、楽器が職人の手で生み出されていく過程を追ったドキュメンタリー、街路が音楽に包まれる祭りのスナップ、などなど。
ああ音楽あるところ、生きる歓びあり。
「パリは移動祝祭日だ」というヘミングウエイの言葉を、ビジュアライズしたのがドアノーの仕事だったのかなと思わせますね。
「ドアノーと音楽、パリ」 ロベール・ドアノー 小学館