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田附勝『KAKERA』 〜トタン屋根書店で見つけた本〜

 ある瞬間をひとつの像に留め置く。そうやって時間を止めてしまえるのが写真の機能なのだけど、ときには一枚のなかに、ずいぶん長い時間が埋まっているなと感じさせる写真もある。これが格好の例ですね、と店主が持ってきてくれたのは、田附勝『KAKERA』だった。

 博物館の資料室で眠る縄文土器のかけらを撮った作品集です。土器がくるまれていた新聞紙も、土器とともに写っていますよ。
 縄文土器のかけらは、数千~数万年単位の昔から、ひっそりと存在してきたもの。片や新聞紙のほうには、せいぜいここ百年のうちの、ある日ある場所での出来事が記されています。東日本大震災関連など、だれの記憶にも新しいことがらが載っていたりもする。
 現実感のあるニュース記事のうえに並べ置かれていると、悠久のときを経てきたはずの縄文土器が、一気に身近で生々しいものに感じられてくるから不思議です。
 ここに写る土器に刻まれている文様だって、かつてだれかが簡単な道具を使いてうんうん唸りながら描いたことでしょう。貯蔵のためか、または祭祀のときに用いたのかはわかりませんが、きっとずいぶん大切にされていたものなんじゃないでしょうか。
 そんなふうに観る側が勝手にいろんな想像を巡らせていくこととなりますね。さまざまな時間の層が重なっていたり、混ざり合ったりしていて、一枚の写真がぐっと分厚い存在に感じられてきますよ。

田附勝 『KAKERA』 T&M Projects

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