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「みかんのヤマ」 13 母の遅い帰宅 20220101

 山の王の、いいようにはさせない。

 いくらわたしがそう固く決意しても、実際のところ何も変わりやしない。
 母がみかんセンターを辞めたりしたら、母子ふたり明日から路頭に迷うだけで。
 ただわたしは、町の商業高校へという提案を保留した。進路を確定するまでにはまだ間がある。何でも思い通りにはいかぬぞとの、せめてもの意思表示のつもり。

 わたしがささやかな抵抗を胸に秘めて過ごしていたところ、思いがけず母が、もっと大胆な行動に出た。
 生活がままならなくなるのも省みず、みかんセンターを飛び出したのだ。

 このところ母は、仕事の帰りがずいぶん遅くなることが増えていた。シフトがどうとか言っていたけれど、そういうときは決まって酒だか何だか、嫌な感じの匂いを漂わせていて嫌だった。
 その夜はひときわ戻りが遅く、ようやく零時を回るころになって、大きい車がうちの近くに停まる音が聞こえた。
 息の上がった母がいつもより荒々しく玄関を開けたかと思うと、そのまま洗面と風呂のつながった水場へ入っていく。そのまま長く風呂を使っているようだったので、ただいまのひと言もないのはどうなのかと思いつつ、わたしはもう勝手にひとり布団に入った。

 翌朝早めに眼が覚めたとき、家のなかに母の姿はすでになかった。
 卓のうえには食パンの袋と、「仕事へ。」とだけ記された書き置きがあった。
 みかんセンターの仕事はそんな早くからあるわけもないのだけど。そう訝りながら、せっかく早く起きられたのだから、わたしも動き出そうとの気持ちになった。
 それで母の文字の下に、
「学校へ。」
 と書き残して、わたしは久しぶりに登校することにした。

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