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読み書きのレッスン    「ログライン」(=「どんな話?」)を10本書いてみる




「死にゆくセールスマン」
「誰からも好かれるスーパービジネスマン」を自任していた老セールスマンは、実はとっくの昔から売り上げゼロ。とうとう会社からクビを宣告されるが、そうなってようやく妻と息子に自分の哀れな姿を晒す決心がつき、初めて家族と理解し合えることとなる。
・ジャンル「難題に直面した平凡なヤツ」


「微笑みの発明」
私生児で常識や堪え性のないまま育ち、こだわりの強さゆえどうしても絵を完成させられない落ちこぼれ絵描きレオナルド・ダ・ヴィンチは、若輩の同業者ミケランジェロやラファエロにあっさり評価で追い抜かれ屈辱を受ける。自己愛が人一倍強いレオナルドは、出始めたばかりの技法・油彩画に目をつけ、その分野で第一人者にならんとする。いくらでも描き足しできる油彩で、来る日も来る日もたった一枚の小さい絵「モナ・リザ」を描き続け、死の直前にこれを完成させたとき、その一枚の絵には生命が宿っていた。
・ジャンル「金の羊毛」


「ジョーカー」
現役最多得点記録保持者という実績を持つが、近年は衰えが目立つJリーガー小久保は、今季限りで現役引退を決めた。家族中心の生活を送ろうと今後のライフプランを立て、都下に自宅を購入し引っ越しも済ませた。が、引越し先の土地に妻と息子が馴染めず、子は学校へ行けなくなる。生き抜く姿勢と術を実地に見せるため、小久保は引退を撤回。すでに40歳となり、体力的にプロの世界で生き抜くのは難しく思えたが、データを駆使した研究分析が得意な息子の協力を得て、パワーやスピードに頼らぬプレー法を理論化し実践することで衰えを克服。スタメンフル出場狙いから交代の切り札へと立場とプレースタイルを転換し、シーズン得点王を達成する。
・ジャンル:「人生の節目」


「漱石の恋」
秀才として将来を嘱望された若き日の夏目漱石は才媛・楠緒子と見合いをし、「運命の人」に出逢ったと確信するも、家同士の「格」や人物的条件で折り合いがつかずフラれてしまう。代わりに彼女の伴侶に選ばれたのは、帝大で漱石と同窓の大塚だった。「2個の者がsame spaceヲoccupyスル訳には行かぬ」と悟った漱石は、フィジカルな世界は大塚に譲り、自分は虚構の中で純愛を成就させんと決める。小説の中だけでも楠緒子と結ばれ暮らそうというのだ。国家的エリートたる帝大教授を辞し、ベンチャー企業だった朝日新聞社に入社し小説書きに身をやつした漱石は、小説に登場するすべての女性を楠緒子の分身として書く。いよいよ小説内でふたりの恋を実らせようと書き進めた大作「明暗」の執筆中、楠緒子は病死。あとを追うように漱石も吐血し事切れる。未完に終わった「明暗」は、主人公の男女が温泉宿で向き合い、心中を正直に告白せんとする場面がラストシーンとなった。
・ジャンル:「バディとの友情」


「スカルプター七番勝負」
津波に襲われた岩手県大槌町に生まれ、仮設住宅で育ったユウは子ども時代、そこらに転がる流木や石を、削ったり組み合わせたりして遊び過ごした。彫刻家になろうと公募展に応募し、東京の老舗H美術館の蓮館長に見出され、著名作家たちとのプレゼン勝負に勝ち抜けば作品を恒久展示してやると持ちかけられ、「美の七番勝負」に臨むことに。これに勝ち抜いたユウだが、美術館での恒久展示は辞して、故郷の蓬莱島に作品を設える仕事に打ち込む。
・ジャンル:「バカの勝利」


「靱負の本分」
薩摩藩勝手勘定方家老・平田靱負は、幕府が薩摩に下命した日本史上最大の治水工事「宝暦治水」の事業責任者となる。木曽三川の工事現場と金融の中心・大阪を行き来して、得意の資金調達はなんとか成したが、目を離した隙に薩摩の荒くれ武士たちは工事現場で、地元民や幕府の士官と衝突してばかり。平田は彼らをうまく統率できず、工事は遅れ、事故死や自害も多発。二年をかけて治水は成ったものの、多大な犠牲が出た。責任をとる決意をした平田は、今際の際に勘定方として、薩摩藩士として本分を果たせたのかどうか自問しながら自害する。
・ジャンル:「組織の中で」


「さよならロバート・ラングドン」
細々と週刊誌のデータ記事を書いてきたフリー記者の「僕」は、眩暈がひどいので診てもらうと血液異形成症候群を患っており、先は長くないと診断される。幼い子を持つ者として家族にまとまったお金を残さねば、そしてあわよくば物書きとして名も残せたらと、急ぎ取材をして「売れ線」の書籍を刊行しようと目論む。大流行している「ダ・ヴィンチ・コード」の主人公ロバート・ラングドンの足跡をたどり追体験する旅行ガイドだ。パリのリッツホテルからロンドン、エディンバラへと豪勢な取材旅行を終えた「僕」の容体は、帰国した途端に急変する。
・ジャンル:「魔法のランプ」


「ひとかどの人物」
地方のニュータウンに住む高校生の「僕」は、小さい頃こそ文武とも秀でて神童扱いされたが、今や成績もクラスでの存在感もただの「そこそこ」。「何者か」になりたくて上京を企て東京の私大へ進学するも、東京ではますます「そこそこ」感が出て周囲に埋もれた。なんとかひとかどの人物っぽさを身につけようと文芸・論壇の情報をせっせと摂取し、将来は筑紫哲也か五木寛之かになろうと心に誓う。マスコミに職を求めるも、極小の編プロに潜り込んだだけで、筑紫や五木にはほど遠い仕事に明け暮れる。心の支えは最新の文芸に触れ、いつか自分で作品を書いて世をあっと言わせるのを夢見ることだけ。すでに若くない頃になって、自分の「そこそこ」感をごまかさずさらけ出せる心境になって、ようやく「僕」は何かが書ける気がしてきた。
・ジャンル:「金の羊毛」


「北斎」
江戸の絵師葛飾北斎は齢八十を超えてから、土地の名主高井家を頼って信州小布施へ居を移した。庶民の生活思想に対する締め付けを強める幕府に、アレフを見つけられ取り上げられるのを恐れてのこと。アレフとは手のひらに乗るほどの小さい球体で、そこに世界のすべてが凝縮されて入っており、この世のあらゆるかたちと色が閉じ込められてあってすこぶる美しい。かたちあるものならなんでも描いてきたと評される北斎は、いつも自室でアレフを眺めながら絵を描いてきた。小布施へ持ち込んだアレフは、なぜか輝くことをやめてしまった。ならば自分がアレフを描き出すしかないと考えた北斎は、毎日丸い宝珠を描き、寺や神輿に丸く巨大な天井画を描いた。それらの作品が北斎の最晩年の最高傑作になった。
・ジャンル:「スーパーヒーロー」


「タルボット」
レスターの城主として生まれた十九世紀の英国紳士タルボットは、新婚旅行でイタリアのコモ湖へ赴く。ボート上で妻をスケッチをするが、まるでうまく描けない。完璧なる幸福を感じるこの瞬間の光景をそのまま留めておけたなら、それだけを支えに生きていくこともできるのにと考え、写真術を完成させようと思い立つ。化学者として研究に勤しんできた経験を生かし、光の作用で像を定着させる方法をほぼ完成させたところ、パリの興行師ダゲールが写真術を完成させたとぶち上げ、特許を取得する予定と聞き及ぶ。田舎紳士タルボットに対抗する有効な手はなく、写真の発明者たる栄誉と莫大な利権はダゲールに持っていかれてしまう。重要なのは写る仕組みではなく何をどう留めるべきかであると思い直し、写真の使い道の手本帖として世界最初の写真集「自然の鉛筆」をつくる。完成した写真集には、彼にとって愛すべき、ささやかながら大切なものの数々がしかと写っていた。
・ジャンル:「バカの勝利」



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