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「若冲さん」 36   20211126

 閉鎖へ追い込まれた錦市場を救うべく、若冲はどんな手を打ったのか。

 ずいぶんな搦め手である。

 まず、壬生や九条など京近郊の有力農村へ出向き、地域の長と直談判した。
 市場再開時の有利な商条件を約すのと引き換えに、奉行所宛の願書を書かせた。
 内容はこうだ。

 天子様や京の守護者のため、我ら農家は日夜作物を拵えている。
 良質な品を安定して届ける本分を今後もまっとうしたい。
 それには良き市場が不可欠。なのに、頼りの錦市場が開いていない。
 我らにとって大打撃である。これでは今後、新鮮な野菜を京へ納められない。
 錦市場の早急な再開を切に願う、と。

 本音を言えば農村にとって、京への納入など大した問題じゃない。
 村内で自給自足はできているのだ。京との取引は割のいい副収入という程度で。
 逆に京の側からすれば、農作物を卸してもらえるかどうかは死活問題。
 為政者にとって生産者との良好な関係は、経済・社会安定のため欠かせない。
 彼らからの請願を、お上はおいそれと無碍にはできぬ。
 この力関係を見越してのことだとすれば若冲、なかなかの策士っぷりだ。

 さらに若冲はもうひとつ、京の内側からの重い一撃も仕込んだ。
 懇意の相国寺高僧、大典禅師を動かしたのである。

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