「若冲さん」 26 20211116
生命を生み出し、残し伝えたい。浮世で無理なら、せめて画のなかで。
そんな若冲の意思はいよいよ固まった。「群鶏図」によって、手応えも得た。
あとは一気呵成だ。
若冲はますます描くことにのみ専心した。単なるひとつの「描くひと」になった。
堂々たる松の大樹に見事な羽根を生え揃わせた孔雀が寄り添う、「老松孔雀図」。
池のほとりに集まるさまざまな虫を丹念に描く、「池辺群虫図」。
海の浅瀬に色とりどりの珍奇な貝類が集まっており、自然の造形の妙を感じさせる「貝甲図」。
若冲は多様な画を続々と完成させていった。とはいえもちろん、膨大な手間隙がかかっている。
一作ずつ日がな描き続けて、それぞれ優に数ヶ月は要した。
描く対象はじつにさまざま。が、どの画にも共通点があった。
生命感だ。そこに生命が蠢いているのを、はっきり感じ取れるのだった。
そうして十年の月日が経った。
若冲はいま、久方ぶりに相国寺・大典禅師のもとへ参上している。
持参した無数の軸を、若冲が手ずから広間の畳上に広げていく。
いったい何本あるのか見当もつかぬ。
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