日本百名湖 三 精進湖
富士五湖のうちで最も小さくひっそりとしているのが、精進湖になる。
その湖面は濃い緑色がかかっていて、粘り気が強い。有機物も、無機的な鉱物もたっぷりと溶け込んでいる気配がある。
透明度の低い水を湛えて重々しく広がる湖面から這い出た岸辺は、ゴツゴツした溶岩でできている。その先は鬱蒼と樹海が広がり、富士の山容へとつながっていく。異郷感がたっぷり。
溶岩が目立って露出しているのは湖のなりたちを考えれば当然で、ここら一帯にはかつて「せのうみ」と呼ばれる巨大な湖が横たわっていた。西暦八百年ごろ、富士の噴火で大室山から溶岩が流れ出し、現在の本栖湖が分離された。
続いて八六四年、貞観大噴火によって長尾山から大量の溶岩が流れ出て、精進湖と西湖が分かたれた。
今も三つの湖は地下深くでつながっていると見られ、水面の高さがそれぞれ連動している。
精進湖は小さいながら、観光地としての歴史は古い。1896年に日本初の外国人専用ホテルとして「精進ホテル」が開業しているのだ。
英国人ハリー・スチュワート・ホイットウォーズは日本の風土に魅せられ、富士山が最も美しく眺められる地を1年がかりで探した。ようやく見出したのが精進湖畔である。彼はロンドン・タイムズその他のメディアに、「世界一美しいショウジコとその周辺」と紹介記事を投稿したり、精進ホテル開業に奔走したりして、この地を広めることに専心した。
精進湖畔はコンパクトにまとまった光景が広がり、迫る富士の山容をよくよく際立たせている。ホイットウォーズが「富士を見るならここ!」と思い定めたのもむべなるかな、である。
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