「若冲さん」 44 20211204
歩を進めては紙に簡略な画を描き足し、また歩いては描きを若冲は繰り返した。
ユウが両手で広げた長紙は、ほうぼうに描き込みがなされて黒々としている。
二本の直線に寄り添うようにして、小さい長方形がおよそ三十もつくってある。
そこに細かい柄が描かれていて、ユウにはそれらが何を示すかうっすらわかる。
「どれも若冲さまがいままでに描いてきた画ですよね!
これでほとんどぜんぶ、二本の線の上に並びましたね。
これっていったい……。ひょっとして、あっ、鳥瞰図つくってたんですか?」
みずからの両手で掲げた長紙に見入っていたユウが、大きめの声を上げる。
応えて若冲が言う。
「そう、二本の線が錦通りだ。これは上から見た図だな。
描き込んだ長方形の位置に、それぞれの画を実際に設けてはどうかと思ってな。
まあ客寄せというか、賑やかしにでもなればと考えたのだが、どんなものか」
若冲の頭の中にある計画を初めて耳にし、ユウはとっさに反応できない。
なんとか理解しようと、とりあえず手中の長紙を改めてしげしげ眺めた。
そうしてようやくひとつ気づいた。
「これ、場所に合わせて画を選んでいたわけですか?
そのためにこうしてご自分で歩いていらしたと?」
そう、若冲が意図したのは、自作の画を宣伝・人寄せの看板にすること。
すこしでも場が華やかに目立って話題となれば、という一念からである。
しかし、ただ画を並べてもあまり意味を為さない。
そこで若冲は、店と画の内容が一致することを目指したのだった。
たとえば、次のようなことだ……。
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