「若冲さん」 45 20211205
錦通りの東端近くには、若冲の生家・桝源と並ぶ青物大店がある。
長紙の簡易な地図上のその位置に若冲は、《芍薬群蝶図》の簡略画を描き込んだ。
同画はたしかに、青々とした葉群れに蝶が群がる図柄だった。
植物の瑞々しさを、観る者によくよく伝えてくれる。
店先にこの画がどんと掲げてあれば、ぱっと人の目を惹くやも知れぬ。
通りの東口からもうすこし進むと、新鮮な大豆を用いてつくる豆腐屋がある。
地図上のそこには《梅花群鶴図》の略画が記されている。
こちらの本画は、鶴の羽根の透き通るような白が目映いもの。
清い水でつくられた、質のいい豆腐の肌を連想させる。
その先に軒を出しているのは、川魚なら京で随一と謳われた大店である。
そこにあてがわれた画は、《蓮池遊魚図》だ。
引き締まった身で俊敏に泳ぎ回る鮎が、画面いっぱいに描いてある。
清流があまりに澄んでいるので、これら鮎は宙空を舞っているのかと見紛いそう。
任意の一匹を捕えて絞めて、塩で炙って一献傾けながら頬張りたくなるのは必定。
この画を観たのち暖簾をくぐって、そこに鮎が売っていれば放ってはおけまい。
業者ならしこたま仕入れ、小売を求める客なら家族分をきっと求めたくなる。
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