「若冲さん」 5    20211026
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「若冲さん」 5    20211026

山内宏泰  公式サイト

 四代目に付いたユウは、まめまめしく世話を焼いた。四代目自身は人に何も求めない、使用人にさえも。だからユウは、よかれと思うことを勝手に進めるようにした。身の回りのことはもちろん、ときに彼の感情までも代替した。

 周囲から目に余る扱いをされたときには、そのことにろくに気づきもせぬ四代目に成り代わって、ユウが憤慨した。

 たとえば食事のことだ。たしかに彼はひとり自分の都合のみによって時を過ごすから、朝餉からして店の者たちとタイミングが違う。四代目も朝は早くて、陽が上るとともに活動しはじめるクチだが、青物商いの者たちはさらにもうひと呼吸早い。陽が上ったときには商売もすでにピークを迎えているといった具合で。

 店で働く者の朝食は賄い役がまとめて作る。時間がズレる当主の分はいつも台所の片隅に、いつもぽつりと取り置かれてある。それをユウが四代目の部屋へと運び給仕するのだが、日によって菜の質の著しく低いときがあるのだ。
 青物を作る農家から出てきたユウには、ひと目でわかる。これはほとんど捨てる部位を用いているとか、日が経って店には置けないほど萎びたものを混ぜているといったことが。

 姑息な……。いくら四代目が店の役に立っていないとはいえ、こんな嫌がらせを。追及されても言い訳が立つスレスレのことをしているのがまた、癇に障る。
 実際これはちょっとひどいと思った日に、膳を運びかけたのを台所へ引き返してその旨を伝えたら、厨房の男からこう返された。
 食べる時間が遅いからそうなる、嫌なら皆と同じ時間に顔を突き合わせて食べてくれたら、こっちゃいつもうまいものを出しているんだが。まったくふだん、どれだけ余計な手間がかかっていると思っているんで?

 悔しいがその通りだし、これ以上不満を言い募るのは越権も甚だしい。ユウはきゅっと唇を結んで膳を抱え、奥の間へと運んでいった。
 長い廊下を一歩進むたび足音が胸に響いた。なんであんなくだらない鬱憤のはけ口にされなくちゃいけないの? 当主様なのに。静かで穏やかで無害なのに。役に立っていないというだけで、なんでこんな邪険にされなくちゃいけないんだろう?

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ライター。アート、写真、文学、教育、伝記など。 著書に「上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史」など。 好物はマドレーヌ、おにまんじゅう。 【Twitter】@reading_photo   info@yamauchihiroyasu.jp