読み書きのレッスン 「キャラクター」を意識するため、いくつかの本を参照する
「キャラクターをつくる」という意識が、圧倒的に希薄である。
そこで、本を何冊か参照することにした。知り得た要所を以下に。
まず……
●『人を惹きつける技術』小池一夫
・世界を席巻するのはストーリーではない。キャラクターである。
・キャラクターとは何か。他と明らかに区別される、個性的な存在のことだ。その圧倒的な個性が、見るものの心を動かす。
・強烈なキャラクターはどのようにして人の心を動かすのか。「感情の入れ物」となって送り手から受け手へと心を運ぶのである。人の心を動かすのは人の心でしかないが、心はそのままでは見えないし運べない。適した入れ物が必要となる。そこでキャラクターが、心を運ぶ「媒介者=メディア」となるのだ。
・ドラマよりキャラクター。これを徹底させよ。
・最初にどういうストーリーを描きたいか考えるのではなく、どんなキャラクターを描きたいかを考えればいい。そのキャラクターをどうみせたいか考えることによって、ストーリーやドラマの中身が決まってくる。
・ストーリーはキャラクター主導で考えるべし。まず、鮮烈な印象を与えるキャラクターの登場シーンを描く。その後、訴えたいテーマに向かってキャラクターを動かしつつドラマを展開。クライマックスではキャラクターが最も輝くように。謎や問題が解決したあとは、キャラクターを引き立てる遊びのシーンで締めくくればいい。
・キャラクターはひとりでは起たない。主人公が輝くには「ライバル」と「引き回し役」が要る。この三角関係を築くことが重要。
・主人公には弱点を、ライバルには欠点をつくること。
・主人公にはオーラを、ライバルにはカリスマ性をつけること。ちょうど「太陽と北風」のような関係である。
・キャラクターに必ず持たせるべきものは……。三つの願い、七つのクセ、特徴的なしぐさ、個性的な持ち物。
続いて同じ著者のものとして……
●『小池一夫のキャラクター進化論』
・まずは「どんなキャラクターを描きたいか」から入ればいい。魅力的なキャラクターを創り、キャラクターを起てる。そしてそのキャラクターの前に「謎」を出してやる。そうすれば「謎」を追いかけるだけで、物語は自然に動いていく。
・読者は最初、「そのキャラクターが自分に何の関係がある?」と見ている。だから、「このキャラ、あなたと似てますよ」「これからこいつが面白いことしますよ」と思わせなければならない。「関係ない」を、「見る価値あり」「好きになってもらう」ことで、目を離せなくさせる。好きな人のことは気になるはずだから。
・キャラクターをどう創るか。わからないことがあれば、本人に訊ねてみればいい。語りかけていれば、そのうち答えてくれるようになる。
・キャラクターの要素とは。
1名前
2身体的特徴 顔、年齢、性別、体型、傷痕、人種・民族
3しぐさ クセ、立居振る舞い、特技、しゃべりかた、
4アイテム・ファッション 持ち物、服装、髪型
5内面 オーラとカリスマ性、弱点と欠点、願い、夢、目標、好き嫌い、趣味、心情・信念、謎・1つ、過去・生い立ち・来歴
・キャラクターに対する期待感を保つには。インスタ映えの要素に倣え。映え写真に写っているのは、「きれいなもの」「オシャレな場所」「美しい風景」「素敵な友だち」「羨ましくなるアイテム」「珍しい体験」。キャラクターがいつ、どこで、誰と、何を持って、何しているのかを、面白そうにすればいい。キャラ映えする最高の舞台をつくってやる。
・キャラクターを魅力的にする味付けは……。
1 テンプレート アイドル、不良、アウトロー、サムライなどベタなキャラに寄せてわかりやすく。見たことないものには共感できないから。
2 ワンポイント テンプレートキャラクターに、とんでもない個性をつける。平凡キャラに「実は地底人」「総理の椅子を狙っている」などつける。
3 ディテール。テンプレにもワンポイントにも説得力ある細部をつける。
・キャラクターを動かすための要素とは……。
1構成 起承転結。起でキャラクターを起てる。承で謎を追わせる。転は技で驚かせる。結は感動・感情を描く。
2消去 不要な時間を消しとばす。テーマに関係ない余分な時間や場所は消去。無駄なシーンはこそげ落とす。
もうひとつ、違う角度から……
●『キャラクター小説の作り方』大塚英志
・「スニーカー文庫」のようなジュニア小説を見直し評価せよ。
・ジュニア小説とは、アニメや漫画の絵をお手本に置いた小説。自然主義文学が現実を描写してきたのだとしたら、ジュニア小説はアニメやコミックの世界内に存在する虚構を写生し、仮想現実を描写する。
・キャラの個性とは、「キャラクターの性格や生い立ちその他の個人の特殊性に由来するもの」と「キャラクターが所属する世界のものの見方の価値観に由来するもの」がある。つまり世界観が大事。
・現在のいわゆる普通の文学は、明治の人々が彼らの前に現れた近代という新しい現実に対処するため作り上げた言葉や作法が基調になっている。明治期は現実が決定的に変容したわけだが、現代もまたそういう時代。いまという現実の更新期に、小説はいかにあり得るか。虚構に根ざしたキャラクター小説こそ、求められているのだ。
著者らは、ストーリーよりキャラクターと繰り返し訴える。なるほど明快。
鮮烈な印象を与えるキャラクターが登場すれば、あとはその前に謎をポンと差し出すだけで話など動く。たしかにその通りに思える。
※たとえば、アンパンマン然り。寅さん然り。
環境・舞台設定も、キャラクターをより際立たせるためにしつらえていけばいい、と。
雰囲気づくりはポイントかもしれない。
※たとえば、平野啓一郎の新刊「本心」にこんなくだりがある。
「自分では、その都度うまく蓋をしたつもりだった体の隅々の孔が、結局、開いたままで、僕の内側に斑な空虚を作り出していた。僕は、外からの侵入者を警戒するあまり、僕自身が零れ落ち続けていたことに、気づいていなかったのだ。」
これ、語っている「僕」のキャラクターや状況がわからないままだと、なんだか気取った奴だなと思ってしまうかも。でも、作品内ですでにちゃんとキャラが出ていて雰囲気もつくられているから、グッとくるくだりになる。
ではこれから、
自分の書きたい主人公を、上記の学びに沿ってキャラづけすべし。
ただ、ひとつ疑問も湧いた。
自分がよかれと思い主人公に据えようとした人物、その彼または彼女が、上記の法則に照らしていくうちに、
「こいつは主人公じゃないな……」
ということもあり得るのか。
言い方は悪いが、器じゃないというようなことが、フィクション上でも起こったりするのか。どうなのだろう。
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