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「若冲さん」 32   20211122

 桝源の者の説明によると、錦通り・危機の次第はこうだ。

 京の東町奉行所より先般、錦市場の由緒と現状を明らかにせよとのお達しがあった。
 いきなりのことだ。これまで幕府が市場の活動に口を挟むなんて一切なかったのに。
 錦通りには御所御用達の店も多く、本来なら奉行所などお呼びではない。

 しかし今回は、やたら強気で厳格だ。
 報告を提出するとすぐ、通りの代表者たちが呼び出される仕儀となった。
 錦通り市場を構成する四つの町の長が、揃って出頭した。
 桝源の現当主つまり若冲の弟も、帯屋町の長としてそこに名を連ねた。

 先方の言をそのまま借りれば、錦市場は丸ごとが違法状態であるという。
 江戸時代初期に市が発足した当初より、無許可で商いがされてきたとのこと。
 これは罷りならん、錦市場は来年初から一切の営業を禁止とする。
 そう言い渡されて一団は帰ってきた。

 それが数日前のこと。今年の暮れも刻々と迫っている。
 以来、善後策とお上が豹変した理由を、町の衆は必死で探った。
 と、見えてきたことがひとつ。
 この騒動、どうやら五条の問屋町市場が裏で関わっている。
 そこは錦の商売敵。新興の市場で、老舗・錦の先行利得が気に入らない。
 御所と結びつきの強い錦に対抗するべく、幕府に取り入ったのだろう。

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