チゴイネルヴァイゼン 4 20211019
次の夜まだ暗くなりきらないあたりから、書斎に座っていても背筋がむずむずとしてきて、どうにも落ち着かない。
とすると私は待ち望んでいるんだろうか、彼女の来訪を。
妙なことになったと思っていると、夜更けにちゃんとKの奥さんはやって来た。
今夜は何を所望してくるのかと身構えていたら、「奥様はご在宅で?」と訊いてくる。
用があって出て、まだ帰らない。そう伝えると、奥様に尋ねたいことがあったのだがとだけ述べ唇を結んでしまった。
ならば上がって待ってはどうかと促すも、いつもの通り敷居すら跨ごうとしない。その状況はあまりに体裁が悪い気がして狼狽した。
では奥様が帰られたら折を見てお尋ねしておいていただけますか。また近く訪いますのでと彼女は言い、このところ毎晩娘が夜中に目を覚ます。布団の上に起き直ってしきりに宙空に向けて話をしている。どうやら亡くなったKと話しているつもりらしい、と話を続けた。
朝になれば亡父の夢を見るのは無理もないと冷静に考えられるが、あまりに毎晩続けば心配にもなる。存外ただの夢見とも思われぬ。
真夜中のKと娘の会話はほとんど聞き取れない、ただ話頭が決まってお宅のことへ向く。きっとこちらに娘の気にする何かがお預けしてあるのです。Kが娘にやりたかった何かなのでしょう。奥様ならそのあたり察しがつくだろうから伺ったのだと言う。
そう述べ置いて、今日のところ彼女は帰った。腕といわず脚といわず、何か危機を感じたかのように総毛立っているのに気づいて、私は身震いした。
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