中野正貴『TOKYO』  〜トタン屋根書店で見つけた本〜
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中野正貴『TOKYO』  〜トタン屋根書店で見つけた本〜

 今年は東京がよく話題に上りますね、東京写真といえばまずこれでしょうと店主が出してきた一冊は、こちら。幼少期から東京で育ち、長じてついた写真家としての仕事も東京を拠点に続けてきた中野正貴による、その名も『TOKYO』という写真集。

 全編これ東京の街の光景を収めた写真が続いているのですが、最初の1枚が最も古くて、1964年のもの。そう、前回の東京オリンピックが開催されたときです。駒沢オリンピック競技場に聖火がともっている様子が写っていますね。中野がほんの子どものころに撮ったものだといいます。
 最後の1枚は2019年で、画面の中央を占めるのは、空をつんざくようにそびえる東京スカイツリー。そのあいだには1970年代から2010年代にかけての、東京各地の写真。
 東京はクラップアンドビルドが激しいし、まだほとんど更地だったお台場や汐留の写真もあるのですけれど、ページを繰っていて胸に去来するのは、
「変わらないものなんだな、東京って」
 という思いです。70年代の写真に写る人の服装あたりに、ちょっとしたノスタルジーを覚えることはあれど、ほかはとりたてて時代の経過を感じないのですよ。
 なぜだろうと不思議でしたが、おそらくは中野が東京を「自分の街」と思い定め、安心感や信頼感を含んだ目で眺めているからじゃないでしょうか。
 ちょっとした風俗的な変化などではびくともしない、普遍的な存在が中野にとっての東京だし、そういう確固たる東京が中野の写真では捉えられている。それで観る側にも、中野の写した東京の光景が、揺るぎないものとして感じられるのでしょう。
 中野といえば1990年代から無人の東京を撮り続けており、今作の多くの写真も、人の姿が写っていません。するとそれだけで、「見知っているようでどこかヘン」という奇異な写真に見えてきます。
 同時に人という「ノイズ」が取り払われると、画面からは都市そのものが持つ輪郭と強い生命力が露わになるような感じもしてきます。
東京の「素」の顔が垣間見えるようで、なぜだかドキドキしてきますよ。

中野正貴 『TOKYO』 CCCアートラボ

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ライター。アート、写真、文学、教育、伝記など。 著書に「上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史」など。 好物はマドレーヌ、おにまんじゅう。 【Twitter】@reading_photo   info@yamauchihiroyasu.jp