読み書きのレッスン 「最期のセールスマン」 プロット および 第一章第一稿
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読み書きのレッスン 「最期のセールスマン」 プロット および 第一章第一稿



◉「最期のセールスマン」 一行プロット

1 セールスマンが自宅駐車場に車を停める
2 荷物を抱えて玄関へ向かう
3 ダイニングで焼酎をあおりクダを巻く
4 妻からセールスをやめ内勤になるよう勧められる

5 朝食の席で社長に直談判してくると話す
6 駅前喫茶店で自己暗示をかける
7 コンビニ前で焼酎をあおり勢いをつける
8 社長に直談判するも逆にクビになる

9 食事の約束を息子にすっぽかされる
10 店で深酒して追い出される
11 家で飲み直して荒れる
12 リモートで息子に詰られる

13 母が息子に電話をしてとりなす
14 息子の小学時代、家の裏手で野球を熱血指導
15 息子の中学時代、進路で父母子の意見分かれる
16 息子の大学時代、就職内定先を調べてダメ出しする

17 朝食の席でウーバーを始める決意する
18 自転車を買いに行く
19 初めての注文、集荷へ行く
20 自転車盗まれる

21 自宅でうなだれすべて誇大妄想だったと白状する
22 息子帰還、自分も虚偽ばかりだった
23 妻の反省、衝突を避けてばかり
24 セールスマン、焼酎をあおると倒れ救急車で運ばれる

25 手術前、病室で家族写真を撮る 
26 そのまま病院で命を落とす
27 斎場で告別式を開くも誰も来ない
28 母子が棺を覗き込み「悪い人じゃなかった」と話す

29 母、借りや支払いがちょうどなくなったと子に告げる
30 息子、家に戻り住み始める




◉最期のセールスマン 三行プロット
1 
セールスマンが自宅駐車場に車を停める。営業報告書を記入する。
売り上げ欄にゼロという数字を書き込み自分で驚く。思わず用紙を丸めて、助手席の窓に投げつけた。


荷物を抱えて玄関へ向かう。ズボンのポケットを乱暴にまさぐって鍵を見つけ、ドアを開ける。
上り框にへたり込む。
妻が二階から降りてくる。支えられるように起き上がる。ひとりでできると妻の手を振り払う。

3 
ダイニングの自席にどかりと座る。妻が手際よく熱いお茶を淹れ、湯呑みを置く。
香りに顔をしかめ、お茶には手をつけず、流し台へ行きグラスに焼酎を注ぎ、電子レンジで温め始める。

4 
妻が内勤にしてもらえるよう会社と掛け合うことを提案する。黙って焼酎を立て続けにあおり、席を立ってみずからおかわりをつくる。椅子に戻ると、ツーカーだったという先代社長との思い出話を始める。


朝食の席につく。セールスをやめて内勤にしてもらえるよう、社長に直談判してくると話す。
これからは後進を指導しながら悠々自適だと展望を語る。顔には恍惚の表情が浮かぶ。


本社のある駅前のルノアールで、アポイントメントまでの時間を過ごす。
営業成績の悪いことが社長に伝わっていたらどうしようと不安。
自分はまだ会社の役に立っていると自己暗示をかける。

7 
本社近くまで来るも、不安が高じて帰ってしまおうといったん踵を返す。
本社の裏手にあるコンビニの駐車場で、焼酎をあおり勢いをつける。
ベテランセールスマンのわざを見せてやろうと、朗らかにビルへ入る。

8 
社長と面会する。
先代との思い出を語り優位に立とうとするも、逆にやんわりと肩を叩かれる。
昼時でランチに誘われるかと期待していたが、引き取りを願われる。

9 
自宅最寄駅前の洋食店に独りで座っている。
息子と食事の約束のはずだったが、すっぽかされる。ひとり来なくなったと店の人に言い出せず、二人前の料理と飲み物をオーダーする。

10 
料理にはほとんど手をつけず、放心した様子でひとりビールとワインの杯を重ねる。
徐々にひとりごとのボリュームが大きくなり、グラスを2個割り、店を追い出される。

11 
千鳥足で家にたどり着く。ダイニングに座るや焼酎で飲み直しにかかる。
セールスの自慢話と、息子が小さい頃は神童だったが期待外れだったことを、交互に繰り返し話し続ける。

12 
スマホの動画通話が息子とつながる。約束キャンセルのメッセージを残したと言う息子の話をさえぎり、もともとお前に期待したことなどないと勘当を言い渡す。
ダメな奴らは皆出ていけと怒鳴り、妻を玄関先へと追いやる。

13
玄関先に座り込んで、母は息子と電話をする。
母はとりなそうとするも、息子は訴える。昔から父に話を聞いてもらえた試しはなかったと。

14
息子は回想する。小学時代、家の裏手で壁を相手にキャッチボールしていると、帰ってきた父がスーツのまま熱心に指導してくれたことを。
チームのコーチとまったく違うメソッドを強制され、途方に暮れた。

15
息子は回想する。中学時代、進路で県立三高の推薦枠を狙いたいと父に申し出たときのことを。
この界隈じゃ一高くらい出てないと一流の人物になれない。得意の野球で一高の推薦くらいとれんのかとけしかけられた。チームでレギュラーですらなかったのに。

16
息子は回想する。大学時代、就活でようやく内定を得たときのことを。
内定をくれた小さい広告代理店のことを、父は親戚の銀行員を通じて調べてもらっていた。あんなところはお前が行くようなちゃんとした会社じゃないと断罪した。

17
朝食の席で竜馬は元気を取り戻した。自分なりにもう一度花開かせるために事業計画を立てた。
ウーバーを始める決意をした。自分の営業スキルだって活かせるはずだと。

18
ウーバーを始めるのに必要な自転車を買いに行く。
最新の電動アシスト付きのものを選ぶ。

19
苦心して起業登録を済ませると、シビレを切らした頃に初めての注文が入る。
集荷へ。晴れがましく妻に送られ、家を出発する。

20
ピザ店の脇に自転車を停め、注文品をとりに店の中へ。
手続きにとまどい時間がかかる。あわてて外へ出ると、自転車はなくなっていた。盗まれた様子。

21 
自宅でうなだれる。仕事への意欲がすっかり失せる。
これまで自分が述べてきたことは、ほとんどが誇大妄想だったと自分でも気づく。

22 
息子が帰還する。
すっかり小さくなっている父を見て、自分も虚偽ばかりだったことを白状する。これまでの勤め先はどこも正社員なんかじゃなかった。今もそうだと。

23
父子の姿を見て、妻も反省の弁を口にする。
すべてわかっていたが、衝突を避けて知らぬふりをしてきた。

24
セールスマン、話を聴きながら焼酎をあおり続ける。
酔いつぶれ、倒れて救急車で運ばれる。
病院で、胃と食道が深刻に侵されていると判明する。

25 
大掛かりな手術に臨む。
手術前に病室で、家族写真を撮る。

26 
そのまま病院で命を落とす。
かなり病状は進行していた。よく我慢していたものだと医師には言われる。

27 
斎場で告別式を開くも誰も来ない。
好かれる男だったはずなのに、と息子は言う。母は達観している。

28 
最期の別れとして、母子が棺を覗き込む。
妻は夫をさして、「悪い人じゃなかった」と話す。

29 
家に戻って母子ふたりで話す。
母は、この家は今初めて借りや支払いがなくなったと子に告げる

30 
息子、家に戻って住み始める。
就職先を探しに出かける。セールスマンになれたらと将来の希望を話す。




◉最期のセールスマン」 本文 
第1章

 1

 埼玉の山あい、小さいニュータウンの夜更けである。
 古びた分譲住宅に帰り着いたセールスマン宅井竜馬が、手狭なスペースに車を停めた。
 ヘッドライトを消すと、辺りは真っ暗になった。竜馬が目をしばたく。
 エンジンも切る。一切の音が消えた。耳鳴りでもするのか、こめかみをしきりに揉みしだく。広い額に浮いた脂が、光もないのにテラテラした。
 大きく息を吐いて、上半身を背もたれに投げ出す。低い呻き声が竜馬から漏れ出た。スダレにした頭髪の数本が乱れ耳に垂れるのを、煩わしそうに指で撫でつける。
 そのまま暗闇と沈黙に包まれて、竜馬は一瞬寝入りそうになる。ふいに眼を見開き、急ぎ室内灯をつけた。
 助手席に置いたアタッシェケースを探り、一枚の書類が取り出された。「日次営業報告書 宅井竜馬」と、上部にあらかじめ刷ってある。
 スリーピースジャケットの胸元からペンを取り出す。何事か書きつけようとするも、筆の行き先はさ迷うばかり。
 ようやく照準が合った箇所は、最下部の「売上総計」だった。欄内にペン先を走らせる。記入されたのは一文字のみ。
「0」という数字だった。
 書き終えた書類にぼんやり目を落としていた竜馬が、ビクリと背もたれから身を起こした。
「んっ、ゼロだと? バカな。このオレがあれほど駆けずり回ったってのに」
 野太い声を上げ、アタッシェケース内を引っ掻き回す。
「どこかに注文書が紛れてないか? ゼロなんてあるはずがない。あっちゃならんっ」
 オレほどの大物が!
 何年セールスしてきたと思ってる!
 今日回った神奈川はオレのシマなんだ!
 言葉を並べ立てながらアタッシェケースを探るも、長くは続かない。
「いや、よそう。ゼロだった確かに。ちょっとばかし運が悪かったんだ今日は。ったくっ」
 竜馬は営業報告書をひと息に丸め、前方へ投げつけた。紙片のボールは軽い音を立ててフロントガラスにぶつかり、ダッシュボードの上に落ちた。

 2

 竜馬は這い出るように車を降りた。
 一歩ずつ靴底を擦りながら玄関へ向かう。商売見本の詰まったアタッシェケースが、左手からだらり垂れている。
 ドアの前で右手がポケットを探るも、鍵は見当たらない。くぐもった舌打ちが鳴る。
 アタッシェケースを地に置き、左手でズボンをまさぐり、ようやく鍵を引っ張り出した。
 荷を引っ張り込みドアを閉めると、竜馬は上り框にへたり込んだ。頭を両膝のあいだに埋めてひとりごちた。
「やれやれだ、まったく。もう六十の坂をとうに越えたってのに」
 物音に気づいた妻の凜子が階段を降りてきて、踊り場で立ちすくんだ。
「驚いた。今日お戻りになるなんて」
 身体に障りでもと心配する妻の声に取り合わず、竜馬は丁寧に紐をほどき靴を脱いだ。
 廊下の電灯をつけて奥へ進む。置き去りのアタッシェケースを両手で持ち上げた凜子が、竜馬の後に続く。
 部屋に入りダイニングテーブルに突っ伏した。その脇をすり抜け、凜子が流し台で手早くお茶を淹れる。
 竜馬の鼻先に湯呑みが置かれた。苦い香りに顔をしかめる。手をつけるでもなく、起き上がって戸棚から小ぶりのグラスを出してきた。流しの下の焼酎瓶をつかみ、なみなみと注ぐ。こぼさぬよう電子レンジに収めてスイッチを押した。
「いや、温まりたいんだ。さっきも手足がかじかんで、危ない思いをしたんでな」
「やっぱりどこかお身体が?」
「何でもないと言っとるだろっ。ただ、ちょっと疲れた。死にそうだ」
 危ない思いをしたというのは、運転中のことだ。喉が渇いていちど休憩したあと、ハンドルやペダルの操作が乱れた。
「知らず車体が左へ左へと寄るんだ。スピードも出ていて、いつのまにかずいぶん道のりが進んでいた。車にガタがきちまったのかも知れん」
「休息が必要なんですよ。あなたひとりの身じゃないんですから」

 3

 背を丸め、熱くなった焼酎のグラスをテーブルまで運ぶ。大事そうに口をつけた。流し台から近い椅子に腰掛けた凜子は自分をどんな眼で見ているか、確認するみたいに彼女へ視線を向ける。
「ともかくひと眠りしたら、また出かける。遅れを取り戻さなくちゃならん。勤勉さこそオレの武器だからな」
 話に合わせて凜子は浅く二度うなずいたが、ふと顔を上げ「ただ、」と続けた。
「セールス先まで運転するのは危険じゃありませんか。やっぱり明日は本社へ行って、内勤にしてもらえないか社長さんに掛け合ってみたら」
 竜馬はそうするともそうしないとも言わず、ただグラスを凝視していた。残った分を一気に呑み干すと、流しへ行き焼酎瓶を傾けグラスを満たし電子レンジにかける動作を反復した。さっきと同じ姿勢でグラスをテーブルへ運び、チビチビ口をつける合間に口を開いた。
「先代なら話は早かったんだが。二人三脚で会社を大きくしてきたようなものだからな。しかし今の息子のほうは話にならん。オレの受け持ちエリアの戦略的重要性をまるで分かっちゃおらん。苦労知らずなんだな」
「でも今は早く床につかないと」
「鹿男は二階でもう眠ってるのか? あいつまで若い連中特有の心得違いをしているなら、正してやらないといかん」
「鹿男はとっくに出ていったでしょう? 車の調子が悪いんなら、あの子の勤める工場で診てもらえますけど」
「ああそうか。あいつ職場では、セールスエリアでのオレのように人に好かれとるのか? それが社会じゃいちばん大事なことだぞ」
「優しい性根ですから大丈夫。それより早く床についたほうが」
「ああ。今はただ死んだように眠りたいな。明日は車の調子がすっかりよくなっているといいが」
 促された竜馬がようやくのろのろ立ち上がり、ゆっくりと廊下へ去る。卓には空になったグラスと、冷め切った濃いお茶をなみなみ湛えた湯呑みが残った。


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ライター。アート、写真、文学、教育、伝記など。 著書に「上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史」など。 好物はマドレーヌ、おにまんじゅう。 【Twitter】@reading_photo   info@yamauchihiroyasu.jp