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美をさがすのが人生で唯一の目的である カッコいいのに自然体。写真家・服部恭平の「生活密着写真」はどう生み出されるのか

「美をさがすのが人生で唯一の目的である」(初出・cakes2022年7月)再掲

だれもがいつでも写真を撮るようになって久しい時代に、あえて「写真で生きていく」ことを決断したのが、服部恭平さん。とことん洒落てキマっているのに、同時に日常のゆるやかな心地よさも感じさせる不思議な写真は、どのように生まれてくるのか。

まずはこのアルバムジャケットを見てほしい。
 


作曲家・都筑清太郎のファーストアルバム『続き/TSUZUKI SEITARO』。全曲、いたってシンプルなピアノ曲だ。どこかもの悲しいけれど、聴いているとときに陽だまりのような情景がありありと浮かんできて、ほのかな幸福感も漂う。
音を聴きながらジャケットに目を落とすと、そこにはインパクトのある女性のポートレートが載っている。スタイリッシュでカッコいいけれど、セットアップし過ぎた人工感はなく自然体で和んだ空気も感じられる。
だれが、どのようにして撮ったのか。俄然興味が湧いてくる。クレジットを見れば、撮影者は服部恭平とある。気鋭のフォトグラファーである。 いまの時代を象徴するような「美しさ」をつくり出すこの表現者に、ぜひ聴いてみたい。作品のインスピレーションはどこからくるのか? なぜ写真に魅せられているのか。表現を人と分かち合うって、どんな意味があるのかを。

『続き/TSUZUKI SEITARO』のアルバムジャケット写真は、音楽内容との相性も含めて、大胆で意外性のあるものに仕上がっていますね。どういう経緯で写真を担当するに至ったのでしょう?
「都筑さんのお父さんで作曲家・プロデューサーのTSUZUKI TAKASHIさんとはもともと知り合いでして。息子がアルバムをリリースするのでジャケット写真をお願いできないか、とお話をいただいたんです。シンプルで優しいピアノの音と、僕の写真のテンションが合うんじゃないかと思ってくださったようで」

 採用された写真は、撮り下ろしたものですか?
「はい、被写体から仕上がりまですべて任せてもらったので、ふだんの僕の撮り方そのままでやらせていただきました。僕が思う写真のおもしろさとは、被写体と対面して時間を過ごしたという行動の記録が、そのまま残るところ。今回採用してもらった写真も、ある日あるところでこの女性と僕がカメラを介して向かい合った、ただそれだけが伝わるものになっているし、それでいいんだと思っています。何の注文もつけずにそのまま使っていただけたのは、うれしいかぎりですね」

 収録曲の雰囲気や内容に合わせようという気持ちは、あったのかどうか。「アルバムの音源を聴きながら撮影しましたよ。どこかに影響が滲み出ているかもしれませんね。都筑さんのお父さんから『コラボレーションをするときは、お互い相手に寄せすぎると半端になってよくない』と言われたこともあって、それぞれが自分の領分でやるべきことをやってぶつかり合ってやろう、染まりすぎないようにしようと考えていました」

 被写体と対面している時間そのものを大切にする。そんな価値観を貫いているから服部さんの写真作品は、一見カッコよくばっちりキマっているように見えて、同時にどこか肩の力が抜けた日常っぽさも漂うのでしょうか。
「そうなっているといいんですが。もちろんつくり込んだカッコいい写真も好きなんですけど、自然体で被写体と撮り手のいろんな気持ちがたくさんのっているほうが、これぞ写真にしかできない表現だなという気がしますね」
 


 たしかに、見ているだけで不思議と気持ちが伝わってくる写真というのはある。写真に気持ちをのせる方法ってあるもの?
「写真を撮る以前からすでにそこにある関係性や快い状態が、写真を通して垣間見られるといいのかなと思いますね。写真を撮る瞬間にどうこうするというより、もともと愛おしいと思っている相手を撮れば、たぶんその愛おしい空気は伝わるんじゃないでしょうか。お父さんお母さんが撮った我が子の写真は、もれなく想いにあふれた写真になりますしね」



 そう言われてみれば、服部さんの撮るポートレートは今回のジャケット写真も含めて、いつも相手を大切に扱っている気配が漂う。
「基本的に人が好きで、相手のことを知りたいという気持ちは強いですね。相手についてもっと知ることにつながらないんだったら、撮っている意味もないという気すらします。ただ写真だけ撮っても、相手の内面なんて写らないし、わからないですよ。写真を撮るという名目でだれかと時間を過ごすというプロセスが、理解を深めるには大切ということです。もちろん写真機が自分と相手のあいだにあると、関係が潤滑になるのでたいへん重宝するんですが」

 服部さんが写真を始めたのは、何かきっかけがあったのだろうか。
「もともとモデルの仕事をずっとやっていて、写真を撮る人と接する機会は多くて身近な存在ではありました。モノや機械はけっこう好きなのでカメラ自体への興味も湧いて、いつしかなんとなく撮り始めてみた。あるとき、友だちの女の子に頼んでポートレートを撮らせてもらったら、その時間がすごく楽しくて、それからどんどんのめり込んでいきましたね」
 


 好きで始めたはいいけれど、写真を仕事にするにはいろいろ壁もありそう……。
「そうですね、写真をやるぞ! と決めたのがもう20代半ばだったので、出遅れている自覚はありました。いま活躍している人たちに追いつくには、単純にたくさん写真を撮らないといけないと思い、できるだけ毎日多くの写真を撮るようにしましたね。日々たくさん撮るって、簡単なようでなかなかたいへんなこと。でも撮っていて気づいたんですが、撮りたいものや写真にしたいことが増えていくに従って、自分の生活もいい方向に進んでいると実感できるんですよね。結局、自分のしたい生活を送れていないと、いい写真は撮れないんだなとわかった。写真は生活と切り離しては考えられない、そんなところが自分の性分とも合っているから、続けていられるしこれからもずっと写真との付き合いは終わらないだろうと感じています」

『続き/TSUZUKI SEITARO』
都筑清太郎ファーストアルバム リリース中。
 https://linkco.re/xUmSg0TE

服部恭平さんと都筑清太郎さんの出会いのきっかけとなった、TSUZUKI TAKASHIさん参加のアルバムはこちら。
価格:3300円
発売日:2021年11月10日
全12曲収録
レーベル:JET CITY PEOPLE

「bokeh[Photography by Kyohei Hattori]」
アルバムに合わせて写真集も刊行。
価格:4950円
発売日:2021年10月29日 48ページ
発行:JET CITY PEOPLE
 



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