
「若冲さん」 42 20211202
若冲にはなんの躊躇もない。
己の生まれ育った錦通りが困っていれば、なんとかしたいとふつうに思う。
ユウを通してぼんやり伝わってくる期待を受け止め、若冲は手立てを考え始めた。
活気を取り戻す……。人を呼ぶ方策……。
ここ数日の若冲は、鴨川沿いの寓居の縁側に座り、日がな頭を傾け続けている。
しかし妙案はなかなか浮かばぬ様子。
それはそうだ。半生のほとんどを引き篭って過ごしてきた若冲である。
活気や人寄せなどといった言葉から、最も遠い身の上だ。
「いえ、そうでもありませんよ。
だってほら、あんな綺麗で華やかな画を、たくさん描けるではないですか」
励ますつもりか本心からか、ユウがそう声をかける。
若冲は一瞬「ほう、」と言うかたちに唇をすぼめたが、先を何も言わない。
そのまま季節柄、日に日に青々としてくる庭の木々を、ただ眺め渡していた。
しばらく経って若冲が、応えとも独り言ともつかぬ様子で口を開く。
「あれは、そんなにすらすら描けるわけではないんだ。
ほれ知っての通り、三十幅を描くのに二十年の月日がかかっておる」
そこでひと息ついて、さらに語を継ぐ。
「しかし、そうか……。
あんな画でも、人の心をすこしは引き立てる役に立つものだろうか?
本当にそうなら、試してみるか。
錦に活気と人を取り戻す方策とやらを」