「みかんのヤマ」 26 イベントが苦痛 20220114
祖父母世代のグループに紛れ込んで、初めてスタバに入った。
皆が順繰りに呪文のような注文をするなか、わたしはメニューいちばん上の「ドリップコーヒー」Sサイズを頼んだ。値段的にもそれがいちばん安かったし。
固い椅子に座って寄り集まり、太極拳という趣味を共有する同士が、楽しそうに喋りまくっている。
和気藹々とした輪に入れてもらえたのなんて、中学の教室以来だ。ここにいさせてもらえるだけでもずいぶん気分が華やぐ。
こういう場で、うまくふるまえるようになりたい。人の心を操るには、まず相手の懐に入り込めないとどうしようもないから。とくに、高齢の人たちと付き合う術は、わたしにとって必須。みかん山の住民の年齢層はかなり高いのだ。
そうはいっても、この「太極拳を終えたあとの仲良しグループお茶会」で、わたしがいきなり耳目を集められるわけもない。そもそもさっきから、ほとんど話に口を挟めていない。ただ微笑んで隅に座っている。
まあその場から転げ落ちず、踏みとどまっているだけでも進歩なのだけれど。
昔から集まりやイベントが、わたしはとにかく苦手だった。
遠足、社会見学、発表会、教育実習の先生が来ること、とにかく学校の行事はすべてが怖かった。
家にいても、
「収穫が終わった次の日曜は、きっといいとこ連れてってやるからな」
よかれと思って父が言い出すと、わたしはとたんに気が塞いだ。
なぜみんな、わざわざイレギュラーなことをしたがるのか。
わたしはふだん通りが好き、居慣れた場所でいつものようにぬくぬくゴロゴロしていられれば、ほかに何もいらない。ずっとそう思ってた。