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永井荷風の撮った写真 〜トタン屋根書店で見つけたもの〜

文豪・永井荷風が写真にはまっていたのはよく知られるところ。彼の手になる写真も多く伝わっていて、これはそのうちの数枚ですね。
もちろんオリジナルプリントではありませんけども、と店主は幾枚かの写真を持ち出してきた。

 街を遊歩していた荷風は、ときにカメラを手に気ままに撮影していたようで、いろんなものをさまざまなスタイルで撮っていますよ。
 自分の食事を撮ったり、踊り子たちがラインダンスしているのを写したり、通い慣れた下町の散歩道もしっかり押さえていたり。
 モダンなもの、いかにも下町風のものと、モチーフによって雰囲気もちょっとずつ変えている芸の細かさ。さすがです。
 それでいて、「本の片手間に撮りました」という態度に貫かれているところがいいのです。「ひとつ名作でも撮ってやろう」といった構えたところがないわけで。
 カメラをぶら下げたときの永井荷風が考えていたことはおそらくしごく単純で、歩いている途中で出合った愛しいもの、それらのいいところをそのまま写してみたい、ただそれくらいのことだったはず。いい意味での素直さを持って、小さな感動を撮っている。
 それくらいの心持ちのほうがいいんでしょう。「ここの光と影の微妙な加減が……」などとつべこべ考えていると、大事なものを見過ごしてしまう。
 荷風の場合は、文章を書くときの態度も、まったく同じだったのだろうと思います。街をそぞろ歩く永井荷風のそんな境地、おいそれと到れるわけじゃないのでしょうけれどね。

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