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「若冲さん」 37   20211127


 錦市場営業停止の沙汰を出した奉行所に春先、相国寺・大典禅師から書状が届いた。

 私信のかたちではあったが、かなり具体的な要望がそこにはしたためてあった。

 大意はこうだ。臨済宗五山の寺すべての庫裡が、年初より困り果てている。 
 五山すなわち天龍寺、建仁寺、東福寺、万寿寺、そして相国寺。
 これらが抱える僧や関係者だけで、いったいどれほどの人数になることか。
 彼らは殺生を控える身。活動生命を支える穀物青物の類は大変重要である。
 青物が安定供給されてこそ、仏の道を究め国を泰平へ導けようというもの。

 なのに錦市場が閉鎖されてこのかた、各寺の庫裡はいつも何かが足らぬ状態。
 これでは僧たちの心持ちも乱れかねない。
 謂れなく健全な市場が閉じられ、青物が僧のもとへ届かないのは小事かもしれぬ。
 そんな些細な綻びから、国が揺らぐ大事に至らなければいいのだが……。
 ただ心配を募らせ、筆を執った次第である、と。

 高名な大典禅師が直々にこうまで述べるとは、かなりはっきりとした意思表示。
 この国の隅々まで隠然とした影響力を持つ、仏教界からの忠言と受け取るしかない。
 

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