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池澤夏樹・垂水健吾『未来圏からの風』 〜トタン屋根書店で見つけた本〜

池澤夏樹の紀行文に、垂水健吾の写真が寄り添った本も、トタン屋根書店の書棚にさしてあった。

インド、ヒマラヤ、アラスカ、ニューイングランド、バリなど世界中へふたりは赴く。「われわれはどこへ行くのか?」という問いをテーマとして抱いて、さまざまな環境のなかへ分け入っていくのだ。
アラスカでは野生の動物を仕留めて食べる文化に触れながら、カリブーというかたちだった生命が人間に食べられて人間にかたちを変える、そうやって次々に受け渡されていく大きな生命の流れみたいなものを感じたりする。
日本にいるとなかなか味わえないような「実感」を、心のうちにどんどん積み重ねていくのだ。
ページを繰っていて気づくのは、写真と文章のリズムが同じであるということ。
池澤の文章は、見たものを簡潔に書き記し、その場で頭をよぎったことがあればそれも、風景を眺めやるようなスケッチ的文章でさらり書き残す。出会った人たちの言葉も同じように、紙の上に備忘的に留めていく。旅のノートをそのまま覗き見させてもらうような読み心地。
垂水の写真もスタンスがまったく同じだ。文章のページにすんなり溶け込んで、いい意味でまったく目立たない。
「われわれはどこへ行くのか?」という大きな問いにそう簡単に答えが出るとは思えないけれど、誰かの旅の思い出話にじかに触れられたような、いい余韻だけはしっかりと残るの一冊なのだった。

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