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創作論1 創造は技術

縁あって福岡へ来ている。
街はコンパクトで便利だし、食べものはおいし過ぎるし、人は皆おおらかで活気があって、最高の土地だ。
けど、居心地のよさにただ浮かれているわけにもいかない。福岡へ来たのは土地を堪能する以外にもねらいと目的があった。
ある方面から一定期間の居場所を提供いただけることとなったので、その滞在中に、
「創作論」と「編集論」を、できるだけ集めて整理し、体系立てることを試みたいのだ。

ジャンル問わずコンテンツをつくることに関わる人は多くいるし、いまは裾野がすごく広がってきている。そうした人たちの漠たる共通の悩みとして、「創作と編集にまつわるメソッドがあまりに整っていなくて、どうすりゃいいのかわからない……」ということがあるんじゃないか。
これまで精神論で押し通してきたけど、それが限界に達してるのをひしひしと感じる。

ないものはつくるしかない。できるかぎり進めていこう。
そう考えて、机に向かい、はて何から……と思いを巡らすと、最初に浮かんできたのはずいぶん古いひとつの記憶だった。
以前に属していた組織が、たまたまクリエイティブライティングの教室を開講していて、それがたいへんおもしろそうに見えたので、僕は担当というわけではないのに、講義の時間になるとノコノコ教室へ出かけていっては耳を傾けていたのだった。

話の筋とポイントは、脳内のまだかろうじて掘り起こせるところに引っかかっている。これを発掘して並べておくところから、創作論のまとめを始めたい。

その講義は文学を例にとって話が進む。ただ内容は、すべての創作に容易に応用できるものなので、マンガ・映像・アートその他をつくる人もぜひ耳を傾けられたい。
まずは総論から。


■記憶の中からの創作論1  創造は技術だ

誰かが自分の思いや体験を、小説やその他の表現によって、書きあらわそうと思い立ったとする。
その内容は、本人にとって切実なものであろうこと、疑い得ない。「こんなのつまらない話かも……」などと考える必要は、まったくない。誰のどんな思いや体験にも、きっと興味深い何かが含まれているに決まってる。

問題は、その切実で興味深い話の魅力を、十全に読者に伝えられるかどうかだ。
魅力を受け手に伝えるには、少々の技術が要る。その技術について以下、語ろうと思う。

とはいっても、そんな身構える必要はない。ここでいう技術の要点は、一行で記すことができる。

自分の書いたものが本当におもしろいかどうかを、自分で確認できること。それがすべてだ。

自分の書いたものについて、「自分が書いたのだから自分じゃ隅から隅までよくわかってる」などと思ってはいけない。客観的・批評的に眺めようとする姿勢が大事である。
言葉はいつも自分の外側にある。どんな手練れとて、自在に操れるようなものじゃない。自分の書いたものは、自分の思った通りには絶対読んでもらえないと肝に銘じよう。
要は人に何かを伝えるって、そんな簡単なことじゃないということだ。

そう考えると、「読んで感じたままを書きなさい」とだけ教える、小学校の読書感想文の罪深さが際立つ。それができればだれも苦労しないのである。
少しでも人に何かを伝えられるようになるため、ちゃんと技術を用いていこう。

伝えるための技術の例をまずはひとつ。
作品内における「近接の原理」を理解し、使おう。

あらゆる作品の中の世界は、現実とは異なる秩序のもとにある。この前提をまずはしっかりと意識すべし。
現実の世界や我々の常識ではこうなるだろうから、だいたいわかってくれるでしょ? で済ましてはいけない。

近接の原理とは、作品の中では、近づいたものは必ず関係するということ。
主人公に、誰かが近づいてきた。そんなシーンがあったなら、その誰かはその後にきっと主人公と関わりを持つことになる。わざわざ近づいていくる誰かを描写したのに、何もしないし起こらないようだったら、読者は「何だったんだ?」と興醒めするだけである。

が、現実の世界では、近接の原理なんてまずあり得ない。
道を歩いていて、向こうから女性が近づいてきた。これが作品の中なら、その女性と何らか関わりが生じるに決まっている。
でも現実に、道で近づいてきた女性と何か関わりが生じることなんてあるか。いやない。すくなくとも僕の人生の中で、そうしたまるで作品のようなことが起きた試しはないのだった。
作品世界は、どれだけ現実に寄せてつくってあったとしても、まったく似て非なるもの。両者のあいだには大きな歪みが生じている。

作品世界は、徹頭徹尾、構築しなければいけないということだ。文学であるなら、思うに任せぬ言葉という道具を使って、なんとか現実とは違う架空の世界をつくり上げる。そこに文学を書く(そして読む)おもしろさとたいへんさが、たっぷりと含まれている。


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