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『森山大道の東京 ongoing』 〜トタン屋根書店で見つけた本〜

 コンパクトながら作家の「今」が詰まっている感じがして、たいへん好もしい一冊はこれですと言いながら、店主が出してきてくれたのは……。


 めくれども、めくれども。東京の猥雑な街並みが現れ出てきて圧倒されます。またこの撮影・発表スタイルが、およそ60年に及ぶ写真人生において、ずっと変わらなかったという事実にも驚かされるばかり。
『森山大道の東京 ongoing』は、東京都写真美術館で開催中の個展に合わせてつくられた一冊です。
 森山大道といえば、東京を撮ることを長らく習性としてきた写真家です。彼は撮影のため日々街へ出ますが、どこをどのような順序で歩くのかは決まっていません。ということは、今日は何を撮るのかだって本人にすらわからない。
 森山は事前に決めた外的・内的ルールを何も持たない。ある場所・ある瞬間を選び取ってシャッターを押すのは、その場における撮り手の純然たる意志のみによる。または完全なる偶然のもとに撮られているのかもしれないが、いずれにせよそれはなんて自由な行為であることか。
 森山大道のスナップショットほど、圧倒的な自由を感じさせる表現を他に知りません。
 同時に、森山がこの世界へ寄せる強烈な信頼もまた凄いと感じます。これほど自由にふるまえるのは、いつどこをどう撮ったとて、世界は必ず「写真になる」と信じ切っているゆえでしょう。自分を取り囲んでいる外界は、どこを切っても隅から隅まで豊穣そのもの。森山作品がそう信じさせてくれますよ。
 一枚の写真とは、無限の可能性を示すこの世界から、たった一つの選択肢をつかみ取ること。そしてどんな選択をしたとしても、失敗なんてあり得ない。それほどまでに、世界はどんな細部までもが美しいのですね。

『森山大道の東京 ongoing』 森山大道 森山大道写真財団

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