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「みかんのヤマ」 28 学びの効用 20220116

 中井先生は公立施設で心療内科の先生をしているのだとか。かつて患者として関わった人に、城下の公園での「朝活」に熱心な向きが多くて、これは心身にいい場所に違いないと、様子を見に来るようになった。

 スタバではひたすらニコニコして座っているばかりだったけれど、著作もあって立派な先生だと周りから大いに囃し立てられていた。こんど読んでみる。

 この朝の出会いから、わたしのルーティンは項目が増していった。
 毎日起き出したらすぐに城下の公園まで行き、まず太極拳、ついでヨガと青空教室をハシゴする。ふたつを終えてもリハビリセンターに出社するまでにすこし間があるから、そのあいだは精神科医の中井先生の著作をあれこれ読む。先生の本は理屈っぽいところがまるでなく、臨床で得た気づきを訥々と書き綴ってあるからスッと頭に入ってくる。

 職場のリハビリセンターでは、利用者にうまく声がけできるようにと、スタッフ向けにコーチング研修や話し方講座が開かれていた。いちばん下っ端のわたしがそんなものを受講する意味も資格もなかったけれど、しれっと何食わぬ顔で隅に座を占めれば、誰もわざわざ排除しようとまではしなかった。

 夜間の整体・マッサージの専門学校にも、もちろんサボらず通った。骨学を終えると筋肉のつき方へと進み、さらには人体にある無数のツボにまで話は及んでおもしろかった。
 正規の大学などと違って、実学をマスターするためのこういう学校では西洋と東洋双方の医学、もっといえば医学と言えない領域まで含めて、人の心身を癒す目的のものならなんでも教えるスタンスをとる。別に学問を修めたいわけじゃなく、人を操るあらゆる術を知りたいわたしには、うってつけの環境だった。
 そうして学ぶことにすべての時間を割きながら、わたしの十代の日々は埋まっていった。学んでいるあいだは、ほかのよけいなことをすべて忘れられるのが、わたしには何よりうれしくありがたかった。

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