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五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝  8 平田は暗愚 20220310

 いま主室に出張っている尾関の上司・平田もまた、洗練を感じさせる趣では決してない。風貌も服装もいたって質実であり、月代の下に湛えている表情はいつも気難しげだ。

 平田家は代々続く家老職なのだから、もすこし華美にしたって誰も文句は言うまいに、平田はそうした方面を弛めることがない。

 それほどの堅物だからこそ、財政・経理の実務を全面的に任されているのだろう。性向と受け持ち分野はまあ、一致している。
 ただ、その職に向いていることと、地位にふさわしい能力があるかどうかは、また別だ。
 平田が本当は数字に強くないこと、込み入った理屈を覚えるのに難があることは、下に仕えるようになった尾関がすぐ気づいたところである。

 足し引きはまだしも、乗除が少しでも混ざるともうついていけないのが平田の地力だ。それで地域ごとの石高にしろ、密貿易をしている坊津港からの上がりにせよ、
「算を入れて正確なところを出しておけ」
 と言うばかり。
 ものごとを理から考えるのが習い性になっている尾関から見れば、平田は暗愚だった。

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