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創作論3 「コルクのマンガ専科講義録」の要点をかいつまむ

マンガ創作を促す場として開かれているコルクラボマンガ専科は、講義録をまとめて刊行している。
マンガ創作の方法もさることながら、ストーリーの紡ぎ方、それに表現者としての在り方がよくわかる中身となっている。
「コルクのマンガ専科講義録」で説かれている内容の要点を以下に。
これを創作の「基本のキ」と考えてよさそうだ。

■いい漫画家になるには、どうすればいいか?
自分が向き合う「問い」を見つけること。それが第一歩。それがあなたの描きたいことなのだから。
そうして、それを表現するための課題を見出すことが二歩目となる。
ここでいう「問い」とは、「好きなこと」と言い換えてもいい。すべてのクリエイターに必要なのは、「好きのおすそ分け」をする姿勢だ。

■そもそもマンガとは何か
マンガとは、「情報と感情」を、「時間を止める技術」を使って、「演出」したもの。これを一応の定義としよう。
では、人がマンガを描く目的は何か? 感情を伝播させること、これに尽きる。
ということは、だ。マンガは感情を描かなくてはいけない。

どのような感情を描きたいのかは、自分の胸によく問いかけてみるのがいい。描きたい感情はどこから見つけるかといえば、自分の記憶の中からだ。マンガの素材の大半は、自分の記憶である。

この際、「自分は大した経験もしてきてないけど……」などと心配する必要はない。誰のどんな記憶もちゃんと物語になるものだ。おもしろくならないときは、記憶の引き出し方が悪いだけである。

記憶をおもしろく語れるかどうかは、演出による。演出は純然たるスキルであり、ちゃんと型がある。この演出の型のパターンを、英単語を覚えるようにまずは暗記してしまえばいい。
たとえば落語は、演出スキルによって物語のシーンをつくり、長い話を聴かせる。物語の核は古くからあって変わらず、それが演出の工夫によってつど生まれ変わるだけだ。

物語のかたちは、いつの時代の誰が語っても変わらない。ならば作品の違いはどこで出すか。感情を描くところに集約するしかない。
自分の感情を深掘りし、人に伝えたい感情が表出した短い瞬間を見つけよう。その一瞬の感情にのみ、誰も描き出したことのない個性が潜んでいる。

自分の感情が動いた瞬間を作品で再現するのが漫画というもの。なので、感情を見つけるクセを身につけることが、マンガ家には重要となる。

すなわち、おもしろいマンガを描くのに必要な能力は、観察力と暗記量ということになる。

■感情を知る
感情の枠組みを覚えるのに重宝するのが「プルチックの感情の輪」。
人間の感情を大別32種類に分類してある。内訳は、人間と動物に共通する24の純粋感情(情動) + 人間に特有の8の混合感情。
創作物で人が読みたいのは、混合感情のほうである。
情動が発生しているのは外部から見てもわかるが、混合も感情のほうは計測不可能なもの。
輪を見ると、たとえば「愛」は、「喜び」と「信頼」の間に位置していることが知れる。ならば愛を描こうとするときは、喜びと信頼双方の要素を入れると深みが増す。

■暗記の重要性
描画技術上達のカギは、暗記にある。暗記のためには、まずしっかりと観察をすること。
絵画を鑑賞しようと思っても、同じ絵をそうそう長く見ていられないことは多い。それは観察が正しくできていない証拠だ。
ものをよく観察する方法としては、ディスクリプションがある。見たものすべてを言葉で、主観を入れず見た事実をありのままに解説していくのだ。このトレーニングをすると、客観的にもの見られるようになる。

事物の構成要素を暗記することも重要だ。何も見ずに、コアラとシロクマの顔を真正面から描いてみる。判別できる絵とするには、コアラとシロクマそれぞれに特有の鼻のカタチを描けばいい。どんな要素がコアラらしさなのか、暗記してこそコアラが描けるようになる。

■感情の描き方
マンガは感情を伝えるもの。だが、作品内でいきなり感情を描くことはできない。
何らかのできごとが起こったのち、そこに感情が生まれる。なので感情を描くには、作品内にまずできごとが起こらねばならない。
描く順は「できごと→感情」である。ただしつくり手としては「感情→できごと」の順で設計すべし。最初に伝えたい感情を決め、そこにつながるできごとを考えるようにする。

感情には2種類がある。受動的感情と能動的感情だ。
受動的感情は、あるできごとを受けて生じる受け身的な感情。
能動的感情は、自分の主体的な動きに結びつく感情。
よって作品内では、「できごと」→「受動的感情」→「能動的感情」の順に描く。
たとえば、「広い公園に来た」(できごと)→「うわあ気持ちいい」(受動的感情)→「鬼ごっこしよう!」(能動的感情) という具合に。

感情を描き重ねていき、クライマックスに向けて強い感情を起こし盛り上げていくのが、マンガのストーリーの基本形だ。

一つひとつの感情には、どちらかへ動こうとするベクトルがある。その指し示す方向を見極めて、なめらかにストーリーを運んでいくのがいい。

■ストーリーの型
ストーリーには型がある。大別すると次の4つの要素から成る。
「こういう主人公が」
「こういう状況になっちゃって」
「こういうことを乗り越えて」
「こういうものを手に入れた」

この型に則りながら、これどうなるの? と続きを気にさせられればしめたもの。
ハラハラする感覚のことをここでは、コレドナ(これどうなっちゃうの?)感と呼ぶ。

ストーリーを構成するプロットは、ひとまとまりの作品が32ページほどでできるとすれば、それぞれ4ページほどを費やして以下の順に考えるといい。
情報(キャラ立て)
コレドナ感
主人公のしたいこと
阻むもの
対立
キャラクター深部
クライマックス
余韻

■どんな絵を描きたいか
いい絵には「トキメキポイント」がある。以下の分類のどれかでトキメキのポイントをつくりながら、いい絵の引き出しを多くしていきたい。
・表情・しぐさ・ポーズなど演技系
・自然・人工物など背景系
・奥行き感・余白など構図系
・リズム・時間・描写など時間系
・エフェクト心理描写など効果系

マンガは絵だけでもストーリーを伝えられるのが理想。ワクワクするいい絵だけ入れた32枚の紙芝居をつくるのを、32ページのマンガの出発点にしたい。

■推敲をする
より人に伝わる作品とするには、繰り返し推敲を重ねる。
推敲は2段階で進める。
1 頭の中の世界を構築できているか
2 それを他人に伝えられるよう表現できているか

第一稿から百点満点の原稿が上がるなどというのはあり得ない。作品のすべてが盛り込まれている1話目は、百回でも直すつもりで臨む。

■描きたいテーマの見つけ方
打ち込めるテーマを見つけるには、自分を掘り下げ、改めて知るのがいちばん。
まずは過去の記憶を棚卸しする。今の自分を形成した大切な出来事は何か? を思い起こす。さらには、過去の土台の上にある現在から、5年後にはどうありたいかを見通す。
自分の姿を過去・現在・未来の軸上で眺め渡すと、自分を貫くテーマや一本のストーリーが見えてくる。

■持続可能な作品づくりのために
作品づくりは、続けられてこそモノになる。次の目標を掲げて常にチェックするようにしたい。
・健康であり続ける 
・メンタルが安定している
・金銭的に余裕がある 
・おもしろいマンガが描ける 
・SNSを活用できる 
・チームをつくる 
・国内でファンコミュニティをつくる
・世界でファンコミュニティをつくる


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