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読み書きのレッスン

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寄せては返す波のように、読むこと書くことを日々学ぶのです。
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#小説

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝 十一 戦さをしても薩摩に勝ち目はない 202203…

 この国で戦乱が日常だったのは遥か昔のこと。ここ百年余りは幕府の大いなる力によって、太平…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝 十 絶妙な罠      20220313

 幕府から薩摩藩へ届いた御手伝い普請の話には、かなりの無理があると尾関尚吾には感ぜられた…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝     9 そんな仕事を請けてはいけない    …

 自身の上司が暗愚であることを、尾関はよくよく承知している。  そして同時に、自身はその…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝  8 平田は暗愚 20220310

 いま主室に出張っている尾関の上司・平田もまた、洗練を感じさせる趣では決してない。風貌も…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝  7 尾関の痩せ我慢

 尾関尚吾が詰める控えの間は、灯りすらともしていないのだから、火の気も当然ない。ここは…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝 6「尾関尚吾という男」 20220308

 尾関尚吾は丸五年に及ぶ江戸藩邸勤めを終え、昨年に藩主島津重年のもとへ呼び戻された有為の…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝  5 強藩を揺るがす心の弱さ 20220116

 宝暦治水をひとつの事象と見た場合、幕府側からすれば「天下の暴れ河」平定の足掛かりができて、満足いく結果を得たと言える。  実務はすべて薩摩藩に丸投げだから、懐ひとつ痛まないのだし。  では薩摩藩から見た、宝暦治水の意味は?  そもそも縁もゆかりもない地の治水に借り出されたのは、幕府の一方的な命による。外様・薩摩の力を削ぐ方策だったのは明らか。  本来、薩摩藩がそんな無理難題を引き受ける大義や理は欠片もない。断固拒否すべき事案だったかもしれない。  折れて工事を請け負っ

「みかんのヤマ」 28 学びの効用 20220116

 中井先生は公立施設で心療内科の先生をしているのだとか。かつて患者として関わった人に、城…

「みかんのヤマ」 27 ヨガと心の先生 20220115

 安心できる場で、ただぬくぬくしていたい。小さいころのわたしの願いは、それに尽きた。なの…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝  4 宝暦治水は美談か  20220115

 かように今際の際まで当人が戸惑っていたことからわかる通り、薩摩の人・平田靫負は生涯にわ…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝 3 腹を裂く理由  20220114

 知らず止めていた息を吐く。と平田は、室の異変に気づいた。  生臭い!  くさいのは息か、…

「みかんのヤマ」 26 イベントが苦痛 20220114

 祖父母世代のグループに紛れ込んで、初めてスタバに入った。  皆が順繰りに呪文のような注…

五十年間失敗し続けた男 平田靫負伝 2 溢れる朱色 20220113

 平田は身を震わせ、上目遣いに辺りを窺う。  彼のいる邸は、木曽三川が育んだ広大な平地に…

「みかんのヤマ」 25 スタバには行ったことがない 20220113

 公園の敷地内には博物館があって、開館前の軒下は人影もないし涼しくていい。  わたしはしゃがみ込んで、魔法瓶に詰めてきた麦茶を身体に流し込む。  大通りまで出るとスタバがあることは見聞きして知っているけれど、わたしはそんな華やかな店に入ったことなんてない。  裾で口を拭いながら、本格的に暑くなるころには十八歳になると気づき、冷や汗が背を伝う。気が焦る。わたしは目的に向けて進めているんだろうか。  ガラス張りの建物に自分の姿が映り込んでいるのが目に入った。反射的に言葉が口をつ