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読み書きのレッスン

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寄せては返す波のように、読むこと書くことを日々学ぶのです。
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2021年11月の記事一覧

「若冲さん」 40   20211130

「いや本当にもう、自分ごとの用向きや願いなど、何もないのだ。  幼少のころより何も成せな…

「若冲さん」 39   20211129

「こちとら余生を送る隠居の身。日々することもないのでな。  こんなときの捨て駒にでもなれ…

「若冲さん」 38   20211128

 事ここに至って、奉行所はかなり追い込まれてしまった。  京の台所を根っこで支える近隣有…

「若冲さん」 37   20211127

 錦市場営業停止の沙汰を出した奉行所に春先、相国寺・大典禅師から書状が届いた。  私信の…

「若冲さん」 36   20211126

 閉鎖へ追い込まれた錦市場を救うべく、若冲はどんな手を打ったのか。  ずいぶんな搦め手で…

「若冲さん」 35   20211125

 年初から営業を差し止められた錦市場は、混乱をきたしていた。  お達しにより開けられぬ店…

「若冲さん」 34   20211124

 ふだんは鴨川のほとりに引っ込んでいて、実家・桝源とは没交渉の若冲である。  火急時に顔を出したとて、解決への援軍とみなされないのは当然か。  ただもちろん、先代として気にかけてくれたのなら、ありがたいこと。  気持ちは受け取っておこうと弟の五代目は考え、素直に礼を述べた。 「でもあにさん、まああまり心配しなさんな。市場の皆と何とかするよ。  あにさんの鴨川の住まいまで取られちまうはずあるまい、安心して暮らしておくれ」  そう言って力なく笑い、ちょっと出てくるよと廊下

「若冲さん」 33   20211123

 店の者が市場の窮状を切々と訴えつつ歩くので、若冲はつい同行するかたちになった。  色と…

「若冲さん」 32   20211122

 桝源の者の説明によると、錦通り・危機の次第はこうだ。  京の東町奉行所より先般、錦市場…

「若冲さん」 31   20211121

 錦通りで若冲に声をかけたのは、桝源で働く中堅どころの男だった。  たしか、寓居で若冲の…

「若冲さん」 30   20211120

「あいわかった。お前さんの気が済むなら全部、置いていけばいい。  軸の二十や三十をしまっ…

「若冲さん」 29   20211119

「あなたが与えてくれた画材を使えば、ひょっとするとわたしにも何かを生み出せる。  実生活…

「若冲さん」 28   20211118

「お前さんのすべてを懸けた絵画三十幅。いますぐすべて寄進するとは太っ腹な。  しかし、な…

「若冲さん」 27   20211117

 相国寺の広間に若冲が並べた自作の画は、全部で三十幅あった。 「これまた、ずいぶん生んだこと……」  見せつけられた大典禅師が口を開いた。  ふだんは高僧らしく言葉にきっと含みと深みを持たせるのに、いまはただ真っ直ぐ感嘆を漏らす。  大典が驚かされたのは、室内を埋めた画の物量ではない。  ありとあらゆる動植物がここでいきなり解き放たれ、眼前に踊り出るさまを幻視させられた。  そのことに、たじろいだ。  まるで寺内が一瞬にして、京の都が建立される以前の太古の森に還ったかのよ